ある神域の深い森の中、村人たちから崇められている神社があった。
この神社には、古くから「執念の神」と呼ばれる神が祀られており、その神は人々の強い願いや未練に応えるとされていた。
しかし、その力は時として恐ろしい結果をもたらすことがあると言われていた。
その村に住む青年、健太は、親友である礼司との絆をずっと大切に育んできた。
しかし、ある日、礼司は村の外で事故に遭い、命を落とした。
健太は突如として奪われた友情に深いショックを受け、礼司を失った悲しみで心が埋まってしまった。
彼は信じ続けていた「執念の神」にすがりつくことを決意した。
健太は神社を訪れ、礼司を取り戻すための願いを捧げた。
「どうか、彼を返してくれ」と。
深夜、神社の境内に立ち尽くすと、突然、不気味な冷気が周囲を包み込み、神の存在を感じた。
影のような形が現れ、健太の前にゆっくりと近づいてきた。
その姿は神でありながら、不気味さを帯びていた。
「何を求めるのか?」と、神は低い声で尋ねた。
健太は自分の胸の内をさらけ出し、「礼司を生き返らせてほしい」と懇願した。
神はしばらくの間静かに健太を見つめ、考え込むように口を開いた。
「その願いを叶えよう。しかし、お前の執念は代償を伴うことを忘れるな。」
健太はその言葉を無視し、礼司を取り戻せるならば何でもするつもりでいた。
神は手を掲げると、森の奥に光が瞬き、言葉では表現できない現象が起こった。
瞬間、健太の目の前に礼司の姿が現れた。
初めは夢の中のように感じたが、確かに彼の姿はリアルで、健太は彼を抱きしめた。
しかし、次第に健太は異変に気づいた。
礼司はただの幻影のようだった。
目の前にいる彼の顔には苦しみが浮かんでいて、「助けてくれ、健太」と叫び続けた。
健太の心が千切れそうになり、彼は神に抗議した。
「どうしてこんなことをするんだ!」
神は冷酷に笑みを浮かべ、「お前の執念は深まるばかりだ。もはやお前のものではない、憎しみの讐に変わった」と告げた。
健太は自らの執念が映し出した影に気づき、恐怖に包まれた。
「私は、何をしてしまったのか…」
その瞬間、強烈な痛みが健太の心に突き刺さる。
彼は礼司を取り戻すための望みが、実は彼自身の運命を呪うものだったことを理解する。
神は言った。
「お前の代償によって、彼は永遠に苦しむことになる。」その言葉は、まるで呪いのように響いた。
健太はその場から逃げ出し、森の奥へと駆け込んだ。
しかし、彼の心の中には、礼司の悲痛な叫びがこだましていた。
「助けてくれ、健太…」それは、彼がかつて抱いていた友情の形ではなく、もはや執念が生み出した暗い呪縛へと変わってしまったのだった。
日が経つにつれ、健太は村人たちからも敬遠され、ついには一人ぼっちの存在になってしまった。
神社へ行く度に、彼の中の礼司への想いは恐怖に変わり、心が壊れていくのを感じていた。
彼は、もはや「執念の神」に囚われた人間となり、いつしか自らも神を恨む存在となった。
深い闇の中、彼は自分の心を取り戻すことを渇望し続けたが、その呪いはより強く、彼を覆い尽くしていく。
苦しみの中で、剥がれかけた友情の記憶だけが、彼の心に残され続けたのだった。
執念が生んだのは、もはや救いではなく、永遠に続く絶望であった。