彼の名前は高橋健一。
彼は地方の警察署に勤務する真面目な警察官で、毎日の仕事を淡々とこなす日々を送っていた。
最近、彼の所属する警察署周辺で不審な失踪事件が相次いでいた。
全ての被害者には共通点があった。
彼らは皆、地元の伝説で語られる「執の者」に関わっていたという。
その伝説によると、執の者とは、一度目をつけられると決して逃すことのない恐ろしい存在だった。
彼は生前、強い執念を抱いて亡くなった人間の霊だと言われており、その執念は生きている者に対しても影響を及ぼすと言われていた。
健一はそんな話を信じてはいなかったが、失踪事件が続くにつれて、周囲の人々も不安を募らせていた。
ある夜、健一のもとに不審な物が届けられた。
彼が警察署で受け取った箱の中には、無造作に入れられた一対の古びた人形だった。
人形はとてもリアルに作られており、それぞれの表情がまるで生きているかのように見えた。
健一はその人形に不気味さを感じながらも、捨てるわけにもいかず、署内に飾ることにした。
翌日から、健一の身に異変が起こった。
毎晩、自宅の周囲で不気味な足音が聞こえるようになったのだ。
最初は風の音かと思ったが、次第にその足音は、何かが彼の後を追いかけてくるような感じを与えてきた。
特に人形が飾られてからは、その足音が近づいてくるのを強く感じるようになった。
そんなある晩、健一は自宅で眠りにつくと、夢の中で彼女を見た。
彼女は失踪した被害者の一人であり、彼の地元で有名な美少女であった。
彼女は目を涙で濡らし、恐ろしい表情で健一に語りかけた。
「私を助けて…あの人形たちが、私を執念で引き寄せようとしているの…。」
彼女の言葉に混乱しながらも、健一は何とか夢から覚めた。
しかし、その日から彼女の姿が心の中から離れなくなり、彼は人形を調べることを決意した。
人形について調べると、驚くべき事実が判明した。
それは、かつて「執の者」により作られた人形たちで、彼女の魂が宿っているという話だった。
健一は背筋が凍る思いを抱きながらも、人形を捨てる決意をした。
しかし、その瞬間、突然目の前が暗くなり、彼女の声が周囲に響いた。
「私を助けて、お願い…」
彼女の願いは、健一の心に響き、彼は人形を捨てることができなくなってしまった。
彼女の存在に執着する気持ちが強くなる中、次第に彼は彼女の姿を見たり、声を聞いたりすることが日常になっていった。
失踪事件に巻き込まれた人々は、彼女のように人形に魂を奪われていったのだ。
ある晩、健一は再び彼女の夢に訪れた。
彼女は今度はもっと強く、はっきりと彼に訴えた。
「私を解放して、私を解放して…彼らは私を執着させるだけ!」彼女の目は恐怖と狂気に満ち、健一は恐れを抱えながらも、彼女を助ける方法を考え始めた。
彼はついに決心した。
彼女を助けるためには、その人形たちを元の場所に戻すしかない。
しかし、それは決して簡単な道のりではなかった。
人形たちは無意識に彼に近づき、彼を埋め込もうとしているからだ。
その夜、健一は暗い森の中にある、古びた祭壇へと向かった。
その祭壇は、伝説通り、執の者たちが力を蓄える場所だった。
彼は人形を祭壇の上に置き、力を込めて「解放してくれ!」と叫んだ。
その瞬間、闇の中から冷たい風が吹き抜け、彼女の声が耳に響いてきた。
「ありがとう…」と。
しかし、その瞬間、周囲に集まる影たちが彼を取り囲み、彼はひどい恐怖に陥った。
彼女の執念からは解放されたが、今度は自分が執の者に取り込まれようとしていたのだ。
果たして、彼は正しい選択をしたのだろうか。
警察官としての彼の役割は、もはや失踪事件を解決するものではなくなっていた。
代わりに、彼もまた、執の者となってしまったのだ。
彼の意識は徐々に薄れ、影の一部となることを運命づけられていたのだった。