ある静かな村に、深い森が広がっていた。
その森には一際大きな木があり、村の人々はその木を「土御門の木」と呼んでいた。
土御門の木は、根が広がり、幹が太く、まるで村を見守っているかのようだった。
しかし、村人たちはその木に近づくことを避けていた。
それには理由があった。
ある日、村の若者、健二が友人たちと共にその森に遊びに行くことにした。
夕暮れ時、彼らは土御門の木を見つけ、興味をそそられた。
周囲には何もなかったが、木の根元に何かが埋まっているのを健二が見つけた。
「これ、なんだろう？」と言いながら、彼は地面を掘り始めた。
友人たちは不安な気持ちを抱きつつも、その様子を見守っていた。
しばらくすると、健二は古びたお守りを見つけた。
お守りには神社の名前が刻まれていた。
その瞬間、空気が変わり、周囲が暗くなった。
雲が瞬時に空を覆い、風が冷たくなった。
友人たちは驚いて、健二に警告したが、彼はお守りを握りしめたまま、不思議な感覚に取り憑かれているかのように見えた。
「戻ろうよ、やめよう！」友人の一人、雅美が叫んだ。
しかし、その時、健二は視線を逸らすことなく、「大丈夫だ、ちょっとだけ確かめてみたいんだ」と応じた。
健二の声には自信があったが、友人たちの心には不安が広がった。
その後、健二が再び土御門の木の根元に戻ると、周囲がさらに暗くなり、まるで地面が彼を引き寄せるかのような感覚を覚えた。
「見て、下に何かいる！」健二が叫んだ。
彼が指差す先には、かすかな光が見えた。
友人たちは逃げるように後ずさりながら、何が起こっているのか理解できなかった。
その光から、誰かの顔が浮かび上がった。
それは、長い間土に埋もれていたかのような、青白い肌をした人の顔だった。
彼は無表情で、冷たい目で健二を見つめていた。
友人たちの恐怖は頂点に達した。
「逃げよう！」雅美が叫び、全員が一斉に森を走り出した。
しかし、健二はその場から動かず、目の前の顔を見つめ続けていた。
「助けて…」その声は健二の耳に直接響いた。
まるで彼の心に潜り込んでくるかのようだった。
周囲が再び暗くなると、健二は力を失ったかのように、その場に立ち尽くした。
友人たちの叫び声や足音は遠くなり、次第に何も聞こえなくなった。
彼の中に、無限に広がっているような暗闇に引き込まれそうな感覚が広がっていた。
「あなたも、ここで永遠を生きるの？」その問いかけに、健二は言葉を失った。
彼はその顔が、自分を見ているだけでなく、かつて土御門の木の下で命を落とした人のものだと悟った。
彼の身体は拒絶反応を示し、逃げ出したいという気持ちが溢れるものの、足は動かなかった。
その瞬間、周囲の闇が健二を包み込み、彼は何かに引き寄せられる感覚を覚えた。
まるで自分自身が地面に吸い込まれていくかのようだった。
ふと、彼の心にも暗い記憶がよみがえった。
子供の頃、家族と過ごした楽しい日々。
友人たちとの笑い声。
今、この瞬間に閉じ込められることが、どれほど恐ろしいことかを理解した。
健二は自分の意志で力強く立ち上がり、土御門の木から離れようと必死になった。
「仲間が待っている、戻らなければ！」その思いが彼を奮い立たせた。
周囲の闇と闘いながら、心の底から叫んだ。
「行くぞ！絶対に戻る！」
彼が再び意識を取り戻した時、自分は土御門の木の根元から離れ、森の外にいた。
友人たちが心配そうに彼を見つめていた。
健二はその瞬間を忘れはしなかったが、同時に心の中には、あの青白い顔と「助けて」という声が響いていた。
それ以来、健二は土御門の木に近づくことを避けていたが、その声は今でも彼の心に残り、時折、暗い夢に現れるのだった。
彼は決して忘れることのできない、深い闇の中の記憶を背負って生き続けていた。
