「図書館の呪いと運命の少女」

ある日の昼下がり、田中は友人たちとともに街外れの山間にある古びた図書館を訪れた。
彼らは昔からの噂に興味をそそられ、好奇心に勝てずに足を運ぶことになった。
その図書館は、地域住民からは不気味な場所とされていた。
特に「運が悪い」とされる本を手に取った者は、必ず不幸に見舞われるという語りが広まっていたのだ。

図書館の扉を開けると、埃っぽい空気と共に古典的な本の匂いが漂ってきた。
薄暗い中、緑色のカーペットが色を失ったように見える階段が続いている。
田中たちは、まず一階の閲覧室を探索し始めた。
その部屋には、何冊かの本が無造作に棚に置かれ、どれも時間の経過を感じさせるものだった。
しかし、その中に一際目を引く一冊があった。
「運を引き寄せる方法」と大きく金色で書かれた表紙だ。

「面白そうだな」と田中は言い、その本を取った瞬間、冷たい風が吹き抜けるのを感じた。
しかし、その風は静寂を保った図書館の中ではありえないことだった。
田中は特に気に留めずに本を開くと、奇妙な文字が並んでいるのを見つけた。
そのページには、「この本を手にした者に運が訪れず、喪失が待っている」と書かれていた。

その言葉を目にした瞬間、田中は本を手放した。
しかし、手の中に残った冷たい感触が彼の心をざわつかせた。
友人たちもその本の不気味な雰囲気に気付いていたが、どうすることもできなかった。
その日の帰り道、田中は胸騒ぎを覚え始めた。
運が悪いという言葉が脳裏に焼き付いて離れなかった。

あれから数日が経ち、田中はその日から異常に物事がうまくいかないことに気づいた。
財布を忘れたことが何度もあり、友人との約束もすっぽかすことが増えた。
運が悪いと思うと、ますますその意識が強くなり、些細なことで心が折れそうになった。

田中はある晩、ふと夢の中に不気味な少女が現れるのを見た。
その少女は、薄い白いドレスを着て、優しい笑顔を浮かべていた。
しかし、その眼差しには悲しみが漂っていた。
「助けてほしい」と、彼女はつぶやいた。
田中はその言葉に胸が締め付けられる感覚を覚え、彼女が何を望んでいるのかを知りたいと思った。

目が覚めると、彼は図書館で見た本のことを思い出した。
運が悪くなった理由は、あの本に関係しているのではないかと感じ始めた。
思い切って友人たちに相談したが、誰もが田中の言うことを軽くし、一笑に付した。
そのため田中は、一人で図書館に戻る決意をした。

再び古びた図書館の扉を押し開けると、その空間は以前とは違った雰囲気を纏っていた。
案内状が本棚の間から見えるかのように、薄暗い部屋へと誘われる。
恐る恐る一階の閲覧室に入ると、あの本はひとりでに彼の前に舞い戻っていた。

「運を引き寄せる方法」という本は、まるで彼を待っていたかのようにそこにあった。
田中は思い切ってその本を手に取り、再度読んでみる。
するとそこには、「あなたが解放されるためには、自分の過去を思い出し、正直に向き合うことが必要だ」との言葉も綴られていた。

その瞬間、田中の頭に様々な思い出がよみがえってきた。
自分が失ったもの、手放したもの、そしてあの少女の悲しい目。
田中は彼女を助けたいという思いも新たに、その場で声に出して彼女の名を呼んだ。
彼の心からの叫びは、長い間苦しみ続けている少女の耳に届いたのだ。

突然、薄暗い図書館の空気が変わり、彼の周りに穏やかな空気が漂うようになった。
田中の目の前に、あの少女が現れた。
彼女の顔には優しい微笑が広がっていた。
「ありがとう、私を解放してくれて」と。
田中は、自分が助けを求められたこと、そして彼女の存在が自らの運を良くする手助けとなったことを感じ取った。

その後、田中の運は徐々に回復し、友人たちとの関係も修復された。
彼は図書館を訪れた際の不安を忘れないことを誓い、二度と無視してはいけない存在を思い知らされた。
喪失の日々はもう過ぎ去り、彼は運を引き寄せる力を手に入れたのだった。

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