「囚われの神社」

奥深い森の中に、古びた神社があった。
その神社は数世代の村人たちによって、神聖視されていたが、同時に忌避されてもいた。
村人たちは、そこにかつて悪い「気」が宿っていたと信じ、それを振り払うために神社を封じ込めることにした。
しかし、その封印は完全ではなく、神社の奥には未だ何かが住み着いているという噂が絶えなかった。

ある晩、大学生の健太は友人の太一と共に、森へと足を踏み入れた。
彼らは肝試しのつもりで、神社に足を運ぶことにした。
健太はその神社に関する噂を知っていたが、興味と好奇心から、どれほどの恐ろしいことが待ち受けているのかを確かめたかった。

森を進むうちに、月明かりは薄れ、暗闇が彼らを包み込んでいった。
深い静寂の中で、急に鳥の鳴き声が周囲をクルクルと飛び交い始めた。
異様なほどの数であった。
その鳴き声は鳥たちのものとは思えないほどの低い囁き声のようで、「来い、来い」と繰り返し呼びかけるようだった。

「おい、どうする?もう引き返した方が良くないか?」太一が不安を口にした。
だが、健太はその声に抗しきれず、歩みを止めることはできなかった。
「大丈夫、もう少し行こう」と、無理に笑って見せた。

やがて、二人は神社の前にたどり着いた。
そこには、木々に埋め込まれたように巧妙に隠れた神社が、不気味に佇んでいた。
鳥の声は一層強くなり、まるで彼らを誘い込むようだった。
「ここが噂の神社か…」二人はお互いに目を見合わせた。

健太は境内に一歩踏み出したが、その瞬間、鳥たちが一斉に飛び立った。
そして、まるで意志を持っているかのように、彼らは神社の奥に向かって、次々に飛んでいく。
「何だこれ、変だな…」健太はため息をつき、太一も不安な表情を浮かべた。

二人は神社の中を探索することにした。
しかし、そこに立ち込める重い雰囲気と、さっきまでの賑やかな鳥の鳴き声は消え失せていた。
静まり返った神社の中は、まるで時間が止まっているようだった。

突如、神社の奥から低い声が響き渡った。
「いらっしゃい、いらっしゃい…」その声に驚き、二人は身を硬くした。
「あれ、聞こえた?」太一が恐る恐る言った。
健太は頷くが、好奇心が芽生えずにはいられなかった。
「行ってみよう…」

二人は奥へ進むと、古びた神木の下にたどり着いた。
その根元には、何か生け贄と思しき物があった。
それは、かつてこの土地に住んでいた者の品々で、朽ちた人形や古いお守りが無造作に放置されていた。
健太は思わず息を呑んだ。
「まさか、これが…」

その時、再び鳥たちの鳴き声が響き渡り、神社の周囲は一層暗くなった。
「逃げよう!」太一が叫んで、そのまま後ろに飛び退いた。
だが、すでに遅かった。
すぐさま鳥たちが次々に彼らの周囲を包み込み、まるで進むべき道を封じるかのように、羽を広げて囲い始めた。

「助けてくれ!」健太が叫ぶが、鳥たちの鳴き声がそれをかき消していく。
「お前たちはここに、永遠に留まるのだ!」その声は、気が滞ったような低い響きに変わった。
太一は恐怖に駆られ、無意識に走り出したが、鳥たちがその動きを封じ込めるようにすぐさま迫ってきた。

彼らはもはや逃げ場を失い、神社の中に取り残されてしまった。
見えない罠にかかり、囚われた彼らは、いつの間にか過去の同じように罠にかけられた者たちの一員として、神社の奥で囁き合う声に包まれ、彼らの運命を共有することとなった。

その後、村では二人の姿が消えたことが噂され、神社はますます忌避される場所となった。
鳥たちの囁き声は続き、いつかまた新たな者がその罠にかかることを待ちわびているものと信じられていた。

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