長い歴史を抱えた古びた館が、静寂の中に佇んでいた。
その館の中で、験という名の青年がひとり、伝えられた怪談を語るために集まった友人たちを待っていた。
彼はこの館の主の子孫であり、父から受け継いだ物語を世代を超えて語り継ぐ役割を担っていた。
「この館には、一度ここで語られた物語が再び音となって現れるという掟があるんだ。」験は、周囲にいる友人たちに視線を向けながら、ちょっと得意げな表情で続けた。
「だが、ただの語りではなく、真剣に心を込めて語らなければならない。」
友人たちは興味津々で耳を傾け、験は物語を始めることにした。
「昔、この館に住んでいた美しい女性がいた。彼女は、ある晩に不思議な声を聞いた。『おいで、私のところへ』と、どこからともなく響いてきたその声に、彼女は呼ばれるまま館の奥へと進んでいった。」験は、口調を柔らかくし、物語に引き込むように語り続けた。
「彼女は、薄暗い廊下を進むうちに、気づけば見知らぬ部屋に辿り着いていた。その部屋は、まるで時間が止まってしまったかのように静まり返り、薄明かりの中で彼女の周りにはまるで影が生きているかのように揺れていた。そして、その影の中から彼女に向かって、また声が響いてきた。『ここにいてくれ』と。」
その瞬間、験の友人たちの表情に緊張が走った。
館の重い空気が、まるで彼らの心を締め付けるかのように感じられた。
「彼女が影の元へと近づくと、その影が次第に形を成し、美しい女性の姿を取った。『私は、生前を悔い、今はこの館に囚われている。あなたの助けが必要だ』と、彼女は語り始める。けれど、彼女の言葉は次第に悲しみに満ち、まるで心の深くから響いてくるようだった。」
験は、語りを続けながら、徐々に迫る不安を感じていた。
彼が語る物語と同時に、館の奥からぽつりぽつりと音が聞こえるようになっていた。
それはまるで、誰かが耳元でささやくような、もしくは遠くで誰かが泣いているかのような音だった。
「彼女は心の底からその女性に惹かれ、ついに彼女の願いを聞き入れることにした。しかし、彼女は館から出て行くことができず、影の女性に誓いを立てる。『ずっとここにいて、私を解放して』と。」
友人たちは息を呑み、音の正体が気になり始めた。
その音は次第に大きくなり、生々しい苦悶の声のように響いていた。
「だが、それを願った代償は大きかった。彼女は、館に囚われた女性の怨念となり、代わりに影の女性が自由になった。その結果、彼女の姿はこの館の中に留まり、ずっと тихい音を立てている…」
すると、突然、館の壁から不気味な音がした。
それは、誰かが泣き叫ぶような、震える声だった。
友人たちの顔は青ざめ、史実の中で忘れ去られた女性らの無念が今、ここに押し寄せてきたのだ。
「こうして、彼女の物語は終わりを迎えたが、館の中では彼女の願いを聞いた者たちが今でも影を感じ取り、そこに呪われた音が響き続ける。」
験が物語を終えた瞬間、再び館の中で音が響き渡った。
薄明かりの中、影が一瞬、彼らの視界に映った。
友人たちは恐れを抱えながら館を後にしようとするが、先に進むことができず、ただ立ち尽くす。
音は次第に近づき、無垢な亡霊たちの囁きは、まるで彼らを捕らえようとしているかのように響き続けた。
