幽は、静かな山あいの村に住む若者だった。
彼は、村の外れにある古い石の祠の側で育った。
その祠は、何年も手入れされておらず、苔むした石が不気味に佇んでいた。
村人たちはその場所を恐れ、近づくことを避けていたが、幽だけはその謎めいた石に惹かれていた。
ある晩、幽は友人から聞いた奇妙な噂を思い出した。
「あの祠の石の中には、亡くなった者の魂が封じ込められている」と。
興味と恐れが交錯しながら、彼はその真相を確かめることに決めた。
村の仲間たちを誘い、夜の祠を訪れることにした。
月明かりが薄暗い森を照らす中、彼らはそっと祠の前にたどり着いた。
薄い霧が立ち込め、途端に空気が重く感じられた。
幽は不安を感じながらも、一歩踏み出した。
「何か音が聞こえる」と、彼の友人が言った。
耳を澄ますと、確かに小さな音が響いている。
それは、まるで石が微かに呟いているかのような音だった。
「あれは何だ?」と仲間たちは怯え始めた。
幽は石に近づき、手を触れようとしたが、その瞬間、音は次第に大きくなり、恐ろしい響きになった。
全員がびくりと背をもたげ、恐怖に満ちた顔を向け合った。
「引き返そう」と一人が言ったが、幽はそのまま石に触れることをやめなかった。
「亡き者の声が聞こえるんだ。これを聞くべきだ」と、彼は心の底から思った。
その時、石の音はさらに鋭くなり、まるで悲鳴が響き渡るように感じられた。
彼の心の中に狂気が芽生えてきて、恐怖で震える仲間たちを無視して声を張り上げた。
「私たちはここにいる。語ってみろ。お前たちの声を聞かせてくれ!」
突然、石から冷たい風が吹き出し、幽を包み込んだ。
彼は目の前に亡くなった村の人々の姿を見た。
まるで夢の中のように、彼らは彼を見つめ、口を開いて何かを言おうとしている。
しかし、何も聞こえてこない。
ただ、その冷たく、空虚な目で彼を見つめ続けた。
幽はその時、彼らの無念が伝わってくる感覚を覚えた。
「もしかして、私も彼らの仲間になるのかもしれない」と、彼は思った。
狂気が彼をつかみ、彼の手は石に吸い寄せられるように動き出した。
友人たちは驚愕の表情を浮かべ、「魅零、早く戻ろう!」と叫びながら彼を引き戻そうとした。
しかし、幽の心はすでに石の海に飲み込まれ、彼の意識は朦朧としてきた。
最後の瞬間、彼は周囲の仲間たちを振り返り、「亡き者の声を聞いてくれ」とつぶやいた。
その声は、まるで音の波となって、仲間たちの心に響き渡った。
瞬間、友人たちは石の中からその声を聞いた。
その声は狂ったように響き、彼らの心に恐怖を植え付けた。
幽は消えてしまった。
そして、祠は静けさを取り戻した。
扱うことのできない音を耳にした友人たちは、ただ立ち尽くすしかなかった。
幽は、彼の代わりに永遠に石に囚われることになったのだ。
月は彼らを静かに見守り、石は再び、その恐ろしい呟きを呑み込みながら、無言のまま森の中に佇んでいるのだった。