「囚われの声」

静かな山奥にある古びた篭。
かつては神聖な儀式の場であったが、今は忘れ去られた場所となっていた。
篭の内部には、朽ち果てた木々、風化した祀りの仮面、そして、気配のない空間が広がり、誰も近づかないような雰囲気を醸し出していた。

ある晩、大学の民俗学を専攻している若者、健一は友人たちと共にその篭へ足を運んだ。
彼らは怪談の真実を確かめようと、恐怖を抱えながらも興味津々だった。
しかし、健一には何か特別な感じがあった。
篭に近づくにつれ、無言の圧迫感が彼を包み込み、背筋が凍るようだった。

篭の内部に入り込んだ彼らは、初めは興味本位で談笑していたが、次第に場の雰囲気が変わった。
やがて、空気は重く、何者かの視線を感じるようになった。
友人の一人がふざけて言った。
「ここには霊が出るっていう噂があるんだって。お前、うまく叫んでみろよ。」

その言葉をきっかけに、周囲が静まり返った。
どこかから冷たい風が吹き込み、篭の隙間から木の葉が舞い散った。
健一は、急に不安を覚えた。
彼は心の中で、自分が何かを呼び寄せているのではないかと感じた。

その瞬間、篭の奥から微かな声が聞こえた。
「私を助けて…」それは女性の声で、どこか遠くから響いてくる。
友人たちは声を聞き、恐怖に駆られて周囲を見回した。
「これ、マジだ!逃げよう!」誰かが叫び、彼らは篭から出ようとした。

だが、健一はその声に引き寄せられた。
意識がその声に奪われ、篭の奥へと進む。
「何か、おかしい…」心の中で感じつつも、身体は勝手に動く。
暗がりの中を進むと、木々の間に一人の女性の姿が見えた。

彼女は朔らかに微笑み、しかし、その目は決して笑っていなかった。
「私の魂はここに囚われている。呪いが私をこの場所に縛り付けているの。」彼女はそう告げると、篭の周囲が轟音とともに揺れ始めた。
健一は恐怖に駆られたが、その声は彼の心に響き続けた。

「私を解放して…あなたに力が宿る。私を代わりに助けてくれれば、私の魂が解放される。そうすれば、あなたも自由になれる。」彼女の声が、いつしか優しく響く。
健一は彼女の瞳に吸い込まれるように引き込まれていった。

このままではいけない。
彼は一瞬の葛藤の後、思い切って叫んだ。
「どうすればいいんだ!?」彼女は静かに囁く。
「私の呪いを解くためには、あなた自身が壊れなければならない。」その言葉を聞いた瞬間、周囲の景色が一変した。

健一は、彼女の言葉の重さを感じながらも、心の奥底で何かが崩れた。
彼の意識は薄れ、目の前が真っ白になった。
次の瞬間、彼は篭の中で倒れ込んでいた。
友人たちは健一を探しに戻り、彼が倒れているのを見つけた。

全てが終わったわけではなかった。
篭を離れた後、健一は自分の心の奥から声が聞こえたような気がした。
「私は解放されたけれど、あなたの心にまだ呪いが残っている。」それからというもの、健一の心には彼女の影が常に付きまとい、彼は生きづらさを感じていた。

彼の中には、助けを求める声がいつまでも響き続けている。
彼はもう一度篭に戻らなければ解放されないのではないかという恐怖に苛まれた。
それでも、彼はその声に魅せられ、そして逃げることができなかった。
篭の呪いは、依然として彼の魂に影を落としているのだった。

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