彼は篭の中にいた。
どこにいるのかもわからず、周囲は暗闇で包まれていた。
光すら感じない空間は、まるで彼を飲み込んでしまうかのようだった。
篭の中で呼吸を感じる度に、不安が心を締め付けていく。
篭は小さく、自由に動くことすらできなかった。
篭の外には、何かの声が聞こえた。
それは彼の名前を呼んでいるようだった。
浩介という名前が呼ばれる度に、彼の心には混乱が広がった。
「誰が呼んでいるんだ?」浩介は思った。
しかし、その声には混ざり気がなかった。
誰か他の人がいる、そう感じた。
彼の心は、徐々に焦りでいっぱいになっていった。
篭の中にいることが、現実なのか、夢なのか分からなくなっていた。
浩介は、思い出す限りの過去を頭の中で反芻する。
家族、友人、忘れたはずの思い出。
だがその全ては、彼の中で消えかけていた。
焦る気持ちが増すにつれ、彼は篭の外に出る方法を探さなければならないと感じた。
声が響く。
「浩介、こっちだ。早く来て!」その声は、かすかに彼の心の奥に響いた。
だが、どこにいるのかは全く分からなかった。
彼は篭を揺らし、もがいてみる。
しかし、逆に篭が大きくなっていくような錯覚に襲われた。
「どこかに出口があるはずだ」と浩介は叫んだ。
それが真実であることを、心の奥で強く願った。
しかし、篭は彼を包み込み、全てを逆に流れさせている。
浩介は、声の主を見つけるために、何とかして篭の外へ出たいと思った。
「浩介!」再び声が叫ばれる。
今度は明確に、彼の背後から聞こえた。
恐怖と期待の中で、彼は振り向こうとし、意識を集中させる。
見えるものは闇。
しかし、その闇の中に、かすかに光が見えた気がした。
その光は、まるで彼を導くかのように、何かを示していた。
あの声の正体は、きっと自分を助けてくれる存在なのかもしれない。
浩介は思い切って、篭を必死に押した。
反発する感覚に悩まされながらも、彼はその光に向かって進もうとした。
だが、光は次第に遠ざかっていく。
不安が胸に押し寄せ、浩介の心を掻き乱した。
「どうして、こんなに遠いんだ?」その瞬間、彼の中で何かが切れた。
彼は、もう一度思い直した。
これは現実なのか。
彼は消されてしまうのか。
浩介は最後の力を振り絞り、篭の出口を目指して叫んだ。
「誰か助けてください!」しかし、声は虚しく響き渡るだけだった。
彼の心に広がるのは、孤独だけだった。
その時、浩介は目の前の光が、実は彼自身の生を逆転させるものであることに気づいた。
彼は自分が探し求める物は、これまでの人生の中で失った思い出たち、そして家族や友人との繋がりであると理解した。
すれ違っていた現実、それは彼の心が生み出した逆の現象だったのだ。
浩介は思い切って篭を破り捨てた。
次の瞬間、彼は暗闇から解き放たれた。
目の前には、彼を見つめる友人たちの姿があった。
涙がこぼれ落ち、彼はその瞬間に生を実感した。
この世界に戻ることができたのだ。
失いかけていた思い出を胸に、浩介は改めて自分の存在を確かめるのだった。