古びた村には、かつて栄華を誇っていた神社があった。
しかし、今やその姿は朽ち果て、周囲は静まり返ったままだった。
村人たちは誰も近づかず、神社の存在を忘れ去ろうとしていた。
その神社には、鳥たちが集まることが知られていた。
美しい羽を持つ鶴や、活き活きとした雀たちで、彼らは神社の周りを舞い、まるで何かを待っているかのようだった。
ある晩、田中健太という若者が村の外れを通りかかった。
彼は友人たちと一緒に過ごすため、村の近くの小川で釣りを楽しむ計画を立てていた。
しかし、友人たちが神社のことを語り始めると、彼の興味はそちらへと向かってしまった。
友人たちは、神社には失われた命の代償として、何か不気味なものが住んでいるのだと警告した。
しかし、健太はその話を軽んじ、「興味本位でちょっと寄ってみよう」と言い放った。
夜が訪れた頃、健太は一人神社へと向かった。
恐れを感じながらも、彼の心のどこかに冒険心が眠っていた。
神社の入口に立つと、静寂が彼を包み込み、周囲には不気味な静けさが広がっていた。
足を踏み入れると、暗闇の中で妖しく光る石の鳥居が彼を迎えた。
目を凝らすと、山のように積もった枯葉の中から、何羽かの小鳥たちが静かに立っていた。
妙に人懐っこい目で彼を見つめながらも、どこか悲しげな羽音を立てていた。
「何を待っているんだろう?」健太は呟きながら、一歩ずつ進んだ。
神社の内部には、黒ずんだ祭壇があり、古い彫刻が施された鳥の像が立っていた。
彼が目をこらすと、その像の背後に、不気味な空気が漂い始めた。
一瞬、背筋が凍りつく感覚を覚えたが、好奇心に負けてその場に留まった。
その時、鳥たちが一斉に空を舞い上がり、彼の周りを旋回し始めた。
まるで彼を歓迎するかのように思えた。
しかし、その姿は次第に凶々しいものに変わり、彼の心はナイフのように冷え込んでいった。
鳥たちの中には、一羽の大きな鶴が混ざっており、その目は健太をじっと見据えていた。
その瞬間、彼の胸の中に不安がこみ上げ、「帰りたい」という思いが沸き起こる。
突然、健太の視界がぼやけ、まるで夢の中にいるような感覚に襲われた。
周りの風景が変化し、古びた神社が何か不気味な存在に包まれていく。
彼は急いで後退り、外に出ようとしたが、足が動かない。
心臓が高鳴り、身動きが取れなくなる。
「助けて!帰りたい!」と叫ぶけれど、声は枯れ果てていった。
その時、あの鶴が一歩前に進み出て、「あなたが欲しい。私たちを助けるために、命を捧げるのだ」と囁いた。
彼は愕然とし、その言葉の意味を理解する間もなく、恐ろしいリアリティが彼を飲み込んだ。
彼の存在は、命の代償として、その神社に捧げられることが決まったのだ。
身動きできず、終わりのない暗闇に引き込まれていく健太。
彼の心の奥底には、恐れと絶望が渦巻いていた。
その瞬間、神社の周りから鳴き声が響き渡り、新たな命を求める鳥たちが舞い上がった。
彼の運命は、今もまた新たな犠牲者を待ち続ける神社の中に消えていったのだ。
時が経っても、村の人々はその神社に近づかない。
しかし、夜が訪れるたびに、そこには不気味な教えがささやかれ、命の代償として新たな犠牲者が必要とされている。
そして、今もどこかで、その神社の周囲を舞う鳥たちの姿が、健太の存在を喚起しているのだ。