「囚われた微笑み」

彼の名は佐藤雅人。
雅人は都心から離れた湿った森の奥にある、祖父の家で一人暮らしをしていた。
心機一転、新たな生活を始めようと決意した雅人だったが、彼を待ち受けていたのは、不気味な運命だった。

ある晩、雨がしとしとと降る中、雅人は祖父が残した古いアルバムを見つけた。
ページをめくっていくうちに、不思議な写真に目を留めた。
そこには彼の知らない女性の姿が写っていた。
彼女は微笑みかけていたが、その目はどこか憂いを帯びていた。
雅人はその女性の正体を知る由もなかったが、どこか懐かしい感覚を覚えた。

その夜、彼は夢の中でその女性に呼ばれた。
夢の中の彼女は淡い光に包まれ、彼に囁いた。
「私を見つけて…」雅人は夢から目覚めると、強い謎の感覚に引き寄せられるように再びアルバムを手に取った。
どうしてもその女性のことが気になった雅人は、森の中で彼女を探す旅に出ることを決意した。

翌朝、湿った空気を感じながら、雅人は森に足を踏み入れた。
陽が差し込まず、薄暗い森の中を進むうちに、どんどん不安が募っていった。
何かに導かれるように歩き続けると、古びた小道に出た。
その先には、不気味な雰囲気を漂わせる小さな神社があった。

その神社には、朽ち果てた鳥居が立っているだけで、周囲は荒れ果てていた。
心臓が高鳴る中、雅人は足を踏み入れた。
そこで彼は、再びあの女性の幻影を見ることになった。
彼女は神社の横に立ち、彼を見つめている。
近づくと、女性の顔がどこか悲しそうに見えた。
「どうしてここにいるの?」と雅人が尋ねると、彼女は消えてしまった。

混乱しつつも雅人は、神社の裏手にある小さな池に目を向けた。
池の水面は静かで、何も映っていなかったが、次第に水がざわめき始め、その中に何かが沈んでいるように見えた。
おそるおそる近づいてその正体を確かめようとした瞬間、目の前で水面が波立ち、奇妙な声が響いた。
「探しているのね…」

雅人は恐怖で身動きが取れなくなった。
しかし、好奇心が勝り、思わず水中をのぞき込んだ。
すると、そこにはレースのような白い衣を纏った女性の姿があり、彼女の目が雅人の心に触れた。
その瞬間、彼はその女性が自分の祖先の一人であることに気づいた。
彼女は長年ここに囚われ、助けを待っているのだと感じたのだ。

一瞬の出来事に戸惑いながらも、雅人は彼女のために何かをしなければと思った。
森を訪れる人々が彼女を忘れないようにするために、何かしらの形で記録を残すことが重要だと考えた。
自分がこの神社の秘密を知ることで、彼女の存在意義を伝えることができるかもしれない。

帰宅後、雅人はその経験を書き留め、後世に伝えることを決意した。
彼はその後も神社に通い、彼女のために手を合わせながら、その存在を忘れないようにした。
しかし、ある晩、雅人はまた夢の中で彼女に呼ばれた。
「あなたの愛は私に届いている。でも、私はずっとここに…」

それから数日後、雅人はその神社を再び訪れた。
しかし、神社の雰囲気は変わり果てていた。
まるで彼女の魂が解放されたかのように、静まり返っていたのだ。
雅人は彼女の存在がかつての悲しみを背負っていたことを深く理解し、彼女に感謝を捧げるために手を合わせた。
やがて、彼は彼女の幻影を見ることはなくなり、静かな森の中で、彼は彼女の記憶と共に生き続けることを決めた。
湿った森には、今も彼女の優しい微笑みが残っているのかもしれない。

タイトルとURLをコピーしました