うつろな街、どこか不気味な雰囲気を漂わせるその場所には、超能力を持つ少年、健司が住んでいた。
彼は生まれつき、他人の心の声を聞くことができるという特異な能力を持っていた。
この能力は、周囲の人々から距離を置かせる原因となっていたが、健司はそれを受け入れ、孤独な日々を過ごしていた。
ある日、健司は学生仲間に誘われて、ハロウィンの夜に行われる肝試しに参加することにした。
言い出しっぺの大輔が提案したその場所は、かつて何人もの人々が失踪したという廃墟のような古い学校だった。
仲間たちはその怖さに興奮し、お互いに恐ろしい話をするが、健司だけはその場に強い不安を抱いていた。
肝試し当日、夜が深まり、仲間たちは懐中電灯を持ち、心霊スポットに向かって進んだ。
廃校に足を踏み入れると、冷たい風が吹き抜け、誰もいないはずの廊下からざわめきが聞こえるような気がした。
仲間たちはそれを無視し、興奮した声を上げて笑い合っていた。
しかし、健司はそのざわめきの正体に気づいてしまった。
彼は他人の心の声を聞くことができるだけでなく、過去の記憶までも感じ取ることができるのだ。
そこに宿る何かが、彼に何かを訴えかけていた。
苦しみ、恐怖、後悔。
そしてその声が、次第に鮮明に聞こえてくる。
「ここから逃げて…ここに留まってはいけない…」
一行は校舎の奥へと進んでいく。
大輔が突然、どこかに見つけたと言って叫ぶ。
それは、古びた黒板に書かれた不気味な文字だった。
「彼らはここに、永遠に囚われる」と。
それを見て仲間たちは笑いながらも、何かを感じ取ったのかビビっている様子だった。
健司はその不気味な文字の背後に隠されている悲しい秘密が、彼の心を締め付けていくのを感じた。
次第に、彼の心の中に温もりが広がり、強い悲しみがこみ上げてきた。
それは、過去にこの場所で命を落とした子どもたちの叫びだった。
彼らは未だにこの廃校に囚われ、心の内に留めている後悔を抱えていた。
「助けて…私たちを忘れないで…」
そのとき、大輔がフラフラとした様子で廊下を進んで行った。
周囲の仲間たちは彼を呼び戻そうとしたが、健司は声が出なかった。
何かに引き寄せられるように、彼はそのまま大輔を追いかけた。
健司は見えない力に引き寄せられている気がした。
やがて、大輔は校舎の裏庭に出て行った。
そこには朽ちかけた遊具があった。
その周りに立つ子どもたちの姿が見えた。
どうやら彼らは、大輔を仲間に引き入れようとしているらしい。
健司はその場にたたずむ子どもたちを見つめ、戦慄が走った。
彼らの目は虚ろで、悲しみに満ちていた。
「ここにおいで、大輔。一緒に遊ぼう…この場から逃げられないから…」その子どもたちの声は、悲しみと苦しみを溢れさせていた。
健司の心は恐怖でいっぱいになり、急いで大輔のもとに駆け寄った。
「大輔、やめろ!ここから逃げなきゃ!」
だが、大輔はその声に耳を貸さなかった。
彼は自分の目の前に現れた友たちに魅了されているようで、そのまま進んでいった。
健司の心は苦しみで締め付けられ、周囲の空気が変わり始めた。
突然、廃校の中は暗くなり、興奮していた仲間たちも恐怖に包まれ、逃げ出そうとしたが、ドアが閉まってしまい、どこにも逃げ場がなくなった。
「逃げないで…私たちと一緒にいよう…」その時、健司は、心の奥深くから轟くような声を聞いた。
その声はもうすぐに消えてしまう、名もなき子どもたちの悲痛な叫びだった。
健司はそれを必死で聞き取ろうとした。
「また、帰ってきてくれれば、楽しいことをして遊び続けよう。」それが何度も耳を打ち、彼はさらに恐怖を感じた。
同時に彼は叫んだ。
「お前たちを助けてみせる!だから、俺のことを忘れないでくれ!」
その瞬間、健司の周りの空気が揺らぎ始め、仲間たちが消えていくのを感じた。
彼は彼らと共に、その場からもう一度逃れられるようにと必死だった。
だが、恐怖に飲み込まれそうなその瞬間、彼は大輔を連れ帰る決意を固めることになる。
学校から逃げ出すため、健司は必死で大輔を引き寄せた。
「戻るんだ!お前はここにいるべきじゃない!」その叫びが響き、彼に力を与えた。
一瞬のうちに、周囲が鬱蒼としてきたが、彼は今の自分の力を信じて仲間を救うため、全身全霊でその場を離れようとした。
結局、彼らは一緒にその場から逃げ出し、道なき道をかけ抜けることができた。
しかし、心に重く残った子どもたちの苦しみは、健司の中で消え去ることはなかった。
そして彼は、彼らの呼びかけを忘れず、決して同じ過ちを繰り返さないよう心に誓うことになるのだった。