公は東京都内の狭いアパートに住む20歳の大学生だった。
彼の部屋は6畳で、一人暮らしながらも質素で整然とした日常を送っている。
狭い空間の中で、彼は自分の趣味である映画鑑賞を大切にしていた。
特にホラーが好きで、様々な作品を集めては食い入るように観ていたが、ある夜、思いも寄らぬ恐怖が彼を襲った。
その晩、公は友人とホラー映画のマラソンをする予定だった。
お互いに怖がりながらも、この時間を楽しみにしていた。
しかし、友人が急に体調を崩し、キャンセルすることになった。
そんな中、公は一人で映画を楽しむことを決意した。
気合を入れて、暗い部屋にひとり、映画が始まった。
その映画は、特に有名な心霊ものだった。
画面に映し出される恐怖シーンに没頭していると、ふと、部屋の何処からか「カリカリ」という音が聞こえた。
初めは映画の音だと思ったが、その音はどうも部屋の中から発信されているようだった。
探してみても、特に何もない。
次第に、その音は頻繁に聞こえるようになり、公は不安を覚えた。
気を紛らわせるために、映画を続けることにした。
が、映画が進むにつれ、狭い部屋の空気が変わっていくのを感じた。
気持ちが悪くなり始め、ついには胸がざわざわする思いに駆られた。
映画が一番の恐怖シーンに差し掛かると、再び「あの音」が鳴り響いた。
その時、背後から冷たい風が吹き抜けた。
思わず振り返ると、特に変わったものは見当たらない。
しかし、「何かいる」という直感を止めることができなかった。
不安な気持ちで続けざまに映像を見ていると、画面に映っていた女性の霊が、次第に姿を変えてゆく。
その表情は、まるで何かを訴えかけているようだった。
そこで公は、彼女の目が自分を見つめていると同時に、部屋の中に何かがいるのではないかと恐れを抱いていた。
映画が終わった後、彼はすぐに電気をつけ、居間の空気を払おうとした。
しかし、部屋に漂う異様な冷気が彼に近づいてくる。
恐怖のあまり心臓が高鳴り、逃げ出したい気持ちと好奇心が交錯していた。
その時、再び「カリカリ」という音が背後から聞こえた。
おそるおそる振り向くと、公の目の前には、透明な影のようなものが現れた。
それは微かに人間の形をしていて、彼をじっと見つめていた。
その瞬間、公は強烈な恐怖に襲われ、自分がこの世界にいるのではなく、何かの呪縛に囚えられているのではないかという思いに駆られた。
「どうして私を忘れたの?」という声が、はっきりと彼の耳に響いた。
言葉の意味を考える間もなく、その影が彼の胸に胸が押し付けられ、思わず息を詰まらせた。
全てが眩しい明るさに包まれ、彼は圧倒的な不安を覚えた。
次の瞬間、公は目を覚ました。
どこか見知らぬ場所にいることに気づく。
周囲を見回すと、小さな部屋の隅に若い女性の写真が飾られていた。
彼女の表情はとても悲しげで、次第に公の心の中に疑問が浮かび上がった。
何かの拍子に、彼はその女性の話を聞いたことがある。
彼女はかつてこのアパートに住んでおり、何かに囚われていたという伝説があった。
公はその瞬間、彼女がかつての自分のような存在であることを悟った。
彼女の優しい笑顔が脳裏に浮かび、もう一度彼女を見つめると、彼女は優しく微笑みかけた。
そのまま、彼は彼女の存在を心に刻み込み、振り返ることができないと決意した。
その後、公は数日間、異常なことは起こらなかったが、部屋の隅には今でも彼女の写真が飾られている。
毎晩、彼女の声が耳元でささやくことがあるが、彼はそれを忘れないと心に決め、自分の道を歩んでいる。
どんな狭い場所であっても、彼女と共に行くことを選んだのだった。