「囁く裏泉の呪い」

ある秋の夕暮れ、友人たちと一緒に遠出した佐藤は、静かな山奥にある秘湯の泉に辿り着いた。
その泉は、地元の人々の間で語られる曰く付きの場所であり、「裏泉」と呼ばれていた。
古くから村人たちが大切に使ってきたこの場所は、今では訪れる人も少なく、神秘的な雰囲気を漂わせていた。

泉の水面は艶やかに輝き、周りには大きな岩がそびえ立ち、どこか不気味な影を落としていた。
佐藤は友人たちに、「ここで温泉につかろう」と提案したが、彼の心の中には、何か不安を感じるものがあった。
しかし、仲間たちの笑顔に促され、彼らは泉の縁に温泉用のシートを敷いて腰を下ろした。

そこに、突如としてひんやりとした風が吹き、周囲の空気が変わった。
皆が集まる中で、突然、泉の水面が激しく揺れだし、まるで何かがその下からのぞいているかのように波立った。
友人たちは驚き、顔を見合わせた。
その時、佐藤は水面の奥に人影のようなものを見た気がした。

「ねぇ、見て…」佐藤が指差した先には、確かに何かがいる。
友人たちは興味津々で近づいていき、泉の中へ手を差し入れた。
すると、その瞬間、まるで何かが彼らの手を掴み取ったかのような力強い感触が佐藤の腕を襲った。
彼は驚いて引き抜いたが、その瞬間、冷たい水しぶきが顔に降りかかった。

「大丈夫」と友人たちは笑いながら言ったが、佐藤の心には嫌な予感が広がっていた。
その時、泉は再び静まり返り、まるで何事もなかったかのように見えた。
しかし、佐藤は気がついた。
泉の底にある暗い影が、彼らをじっと見つめているのではないかということに。

夜が近づくと、温泉は不気味な静けさに包まれ、佐藤は一人、やるせない気持ちで木の陰に隠れていた。
ふと、背後から声が聞こえた。
「助けて…」誰かの囁き。
振り返っても誰もいない。
気味が悪くて、再び泉へ近づくことはできなかったが、友人たちが泉の水で遊んでいるのが見えた。

その晩、彼らはキャンプ場でテントを張って寝ることにした。
しかし、夜中、佐藤は不安に駆られて目が覚めた。
静かな空気の中で、再び耳元に囁き声が響く。
「裏を知っているか?」急いでテントを開けると、暗闇の中、友人の一人である信夫がうなされながら座っていた。
彼の目は虚ろで、口からは泡が飛び出していた。

「信夫!」佐藤は驚き、彼を shaking した。
しかし、信夫は目を覚まさず、ただ呟き続けた。
「裏…呪い…」佐藤は恐れながらも、何が起きているのか、彼の話を聴こうとした。

気がつくと、信夫が指さした先には、以前には見えなかった小さな穴が開いていた。
恐る恐る近づくと、その鼓動のような音が聞こえてきた。
まるで誰かが、その穴の奥で脈打っているかのように思えた。

「行こう!見に行こう!」と友人たちが興奮して穴に近づこうとしたが、佐藤は不安に襲われ、反対した。
「ここには何かある…行ってはいけない!」しかし、彼らの好奇心は抑えきれず、ついに一人が中へ入っていった。

数分後、泉が急に波立ち、叫び声が響いた。
その瞬間、佐藤は背筋が凍りついた。
彼の視界には、友人たちが一人また一人と消えていく姿が見えた。
まるで泉が彼らを呑み込んでいるかのようだった。
絶望的な思いに駆られた佐藤は、ただ一人、泉の傍を離れ、必死に逃げ出した。

その後、彼はとうとう村に戻ったものの、友人たちの行方は知れず、泉の周囲でも誰も彼らのことを語らなかった。
ただ、佐藤の心に刻まれた「裏泉」の記憶は、決して消えることはなかった。
彼が振り返るたび、また誰かが彼に囁きかけるような音がするのだ。
これが、呪いの存在なのかもしれないと、彼は思うのだった。

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