「命を求める森」

ある小さな村のはずれに、昔から「終の森」と呼ばれる不気味な場所があった。
その森には決して近づいてはいけないという言い伝えがあり、誰もその森に足を踏み入れたことがなかった。
村人たちは、森の奥に住むという「終に至る者」を恐れ、ただその存在を語り継ぐだけだった。

高校生の亮は、そんな話を半信半疑で聞きながら育った。
だが、彼はその言い伝えに興味を持ち、ある晩、友人の美和を誘って森へと足を運ぶことにした。
「恐いやつらとは違う、真実が知りたいんだ」と言って、彼は自らの興味を押し通した。

夜が深まるにつれ、森の中は静寂に包まれていた。
月の光が薄く、樹々の間から漏れ出てくる。
二人はその道を進むうちに、次第に不安が広がっていった。
しかし、勇敢な亮が「大丈夫だよ、ただの噂さ」と美和を励ました。

しばらく歩くと、彼らの目の前に森の中心に位置する小さな社が現れた。
そこには古びた鳥居が立ち、石段を上った先には神社と思われる小さな社殿があった。
「こんな所に…本当に人がいたんだ」と亮は呟きながら、好奇心に駆られ中へと入った。

社の中は静まり返っていた。
薄暗い空間には、古びた祭壇といくつかの雛形が置かれており、何か不気味な雰囲気を漂わせていた。
亮は懐中電灯で周囲を照らしながら、壁に描かれた不明な文字に目を奪われた。
それはまるで、神社での祭りに関する説明のようで、「華」という言葉が何度も繰り返されていた。

「見て、これ」と亮が言い、美和を呼んだ。
しかし彼女の視線は違う場所に向いていた。
それは、社の奥にある小さな穴。
そこから何かが動いているように見え、時折「ピカピカ」と光るものがあった。
「行ってみよう」と亮が言うも、美和は不安げに首を振った。
「やめた方がいいんじゃない…」

その瞬間、鳥の鳴き声が森の中に響き渡った。
その声はとても異様で、かすれたような、不気味な響きが2人の耳に届いた。
「何だろう、あの声…」亮が怖れを抱きながら言うと、美和はただ黙って耳をすませた。

再び鳥の声が響くと、今度は二羽の黒い鳥が社の前に飛び降りた。
彼らの目は異様に輝いていて、まるで人を見透かすような視線だった。
亮と美和はその場から逃げ出そうとしたが、恐怖で動けずに硬直してしまった。

「終の森は、華を求める者によって変わる」という声が耳に届き、亮は突如として身体が重くなり、冷たい汗が流れ落ちてきた。
その瞬間、二羽の鳥は一斉に飛び立ち、社の中から何かが現れた。
それは、終に至る者—どこか見覚えのある、しかし明らかに異なる存在だった。

「あなたたちの命を捧げなさい」という声。
亮は混乱し、美和の方を向いた。
「美和、逃げよう!」と叫んだが、彼女の目は虚ろで、まるで何かに呑み込まれたかのように静止していた。
彼は美和を助けたいと思ったが、身体が動かず、朦朧とした意識の中で別の現実が彼を包み込んだ。

そこには、彼自身の命を捧げるか、美和の命を奪うかという選択が待っていた。
理由も分からないまま、命を選ぶことの重さに圧倒される。
亮は何とか意識を取り戻そうと必死にもがくが、鳥たちの声が耳元でささやき続け、「選べ」と催促された。

最後には、亮は狂ったように悲鳴を上げた。
「美和を放せ!」しかし、その声は虚しかった。

次の瞬間、全ては終わった。
森は静まり返り、二人の姿はどこにも見当たらなかった。
villagersは再びその話を語り継いだ。
「終の森は、今でもその命を求めている」と。

タイトルとURLをコピーしました