「命を吸う華」

かつて、静かな村の外れにある古びた神社には、美しい花々が咲き誇っていた。
特に夜になると、月明かりに照らされた花々は神秘的な光を放ち、村人たちにとっては隠れた宝のような存在であった。
ただし、その美しさの裏には、長い間語り継がれてきた恐ろしい伝説があった。

ある晩、若い男性の健一は、友人たちと遊びに行く途中でその神社を見かけた。
彼は花の美しさに魅了され、友人たちに向かって言った。
「この神社の花を見てみようよ!」。
しかし、友人たちは過去の噂を知っていて、誰もついてこようとはしなかった。
「やっぱりやめよう、あそこには近づかないほうがいい」という言葉に、健一は少しイライラした。
だが、彼は自分一人でも行くことを決めた。

神社に足を踏み入れると、彼はしんと静まり返った空気に包まれた。
周囲には美しい花々が咲くが、どこか不気味な影を感じる。
心臓が高鳴り、緊張した。
しかし、健一はその美しさに心を奪われると同時に、どこか異様な興奮を覚えた。
「何か特別な体験ができるかもしれない」と彼は思った。

しかし、かつてこの場所で何が起こったのか、彼には知らされていなかった。
この神社では、長い間、命を捧げた者たちの魂が彷徨っているという。
特に満月の夜、花々はその命を吸い上げるかのように生き返り、霊たちが現れてくるのだ。

健一が花に近づくと、不意に風が吹き抜け、大きな音と共に背後に何かが立っていた。
振り返ると、そこには薄暗い影が立ち尽くしており、無数の花びらが周囲を舞っていた。
「私を呼んだのか?」その声はかすかに耳に残る。
暗闇から姿を現したのは、かつてこの神社に命を捧げた女性の霊であった。
彼女の髪は花々で飾られ、目は悲しみに満ちていた。

その女性は、かつてこの神社で命を与えられた者たちが、華やかな花に囲まれ、そして奪われたことを語り始めた。
「ここでは、命の代わりに美を求められる。花は私たちの命を吸収し、美しさを保つために、誰かを必要としているのだ。」

健一は恐れを感じ始めたが、同時にその霊の言葉に導かれるように前に進んだ。
「私に何をするために呼んだのか?」彼は問いかけた。
すると、霊は微笑み、「あなたの動きを与えたくて、ここへ呼んだのだ」と答えた。
その瞬間、健一の心臓が一瞬止まるような感覚に襲われた。
動くことができず、彼は恐怖に包まれた。

周囲の空気は変わり、華やかな花々が急に色を失い、不気味な影が濃くなった。
健一は思わず後退りし、「帰りたい!」と叫んだ。
しかし、霊はその場に立ち尽くし、「私たちの命を救う者よ、あなたの命を差し出すのだ」と強く迫った。

逃げようとする健一の目の前で、花々は不気味にさざめき、影が伸び縮みし、彼を取り囲む。
彼はその場から逃げようとしたが、動くことができないまま、花々の中に引き込まれていった。
華やかなものに囲まれながら、彼は絶望的な状況に飲み込まれていった。

周囲がさらに暗くなると、窓から月明かりが差し込み、彼はその美しさに心を打たれる。
しかし、気がつくと、彼は花の中心に立たされ、命を捧げるための儀式が始まろうとしていた。
「美は命の代償である」と彼の心に響く言葉が繰り返される。

命を求めるその夜、健一は自らの命を理解することなく、華やかな花に飲み込まれ、神社の影に消えていった。
彼の存在は、また一つの美しい花となり、次に来る者を待ち構えているのだった。
あの日見つけた神社の花たちは、今も人々を誘惑し続けている。
彼の運命は、やがて同じ運命を持つ者たちの中に生き続けるのだ。

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