「命を吸う家」

静まり返った夜、村の端にある老朽化した家が、ひときわ不気味な存在感を放っていた。
この家はかつて、一族の賑わいがあったという。
しかし、時を経るにつれ、家族は去り、建物は朽ちていった。
村人はその家を忌み嫌い、近寄ることすら避けていた。

ある冬の晩、一人の若者がその家に足を踏み入れた。
彼の名は明人。
若さ故の興味と好奇心が、彼をこの不気味な場所へ導いたのだった。
たまたま村に訪れていた明人は、古い言い伝えを耳にし、その家に何か特別なものが隠されているのではと感じていた。
それは「命を吸い取る物」という言い伝えだった。

明人は家の扉を押し開けると、ギイッと不気味な音を立てて開いた。
家の中は薄暗く、長い間誰も住んでいないことが伺えた。
ほこりまみれの家具、壁には家族の写真が掛けられていたが、どれもはっきりとは見えないほどに色褪せていた。
明人は家の中を探索し始める。

やがて、明人は奥の部屋に辿り着く。
そこには一つの古びた木箱が置かれていた。
明人はその箱に目を奪われ、無造作に蓋を開けると、中には複数の物が収められていた。
それは一見普通の道具類だったが、何か異様な光を放っていた。
彼はその物に手を伸ばす。
すると、瞬間的に胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

その時、ふいに明人の耳元でささやくような声が聞こえた。
「あなたの命を、私にお返しして。」その声は温かくもあり、どこか冷たさを含んでいた。
驚いた明人は思わず後退り、箱から離れた。
だが、その声はさらに強くなり、彼の心の奥に潜り込んできた。

「この家には、多くの命が詰まっている。あなたも、私の一部になるのだ。」

恐怖に駆られ、明人は急いで家を出ようとしたが、出口はどんどん遠のいていく。
彼は建物の中で動けなくなり、心の中で葛藤した。
逃げ出したい、しかしその物に惹かれている自分がいた。
運命に抗うことができず、彼は再び箱に手を伸ばした。

その瞬間、周囲の景色が変わり始めた。
家の中が明るくなり、過去の家族の姿が現れた。
彼らは楽しそうに談笑しており、明人はその光景に魅了された。
しかし、次第にそれが彼の目に映るのは病んだような笑顔であり、彼が求めていた温もりから逸れていくのを感じる。

「あなたも、仲間になるのよ。」その声が再び響いた。
明人は恐怖に駆られ、思わず箱を閉じた。
すると周囲の光が暗くなり、かつて家族があった場所は虚無に包まれていく。
明人は箱を持ったまま、必死に逃げようとしたが、次第に意識が薄れていった。

気づくと、明人は再び家の外に立っていた。
しかし、その手には箱がしっかりと握られていた。
彼は箱を開けると、そこには誰かの思念が宿っているように感じた。
今や、彼はその家の一部となってしまった。
彼の命は、家の物として永遠に囚われる運命にあったのだ。

明人は逃げることができず、ただ、彼を取り囲む穏やかな闇の中で静かに存在し続けるしかなかった。
「命を吸う影」は、また一つの魂を求めて、その家で静かに待っていた。

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