静かな地方の小さな村には、一つの線が存在していた。
それは、村の外れの古い橋から始まり、暗い森を抜けていく一本の道だった。
この線は、一度踏み外すと、戻れなくなると言い伝えられていた。
村人たちはその道を恐れ、子供たちには「近寄ってはいけない」と常に教えていた。
しかし、好奇心旺盛な女の子、名を由紀といい、彼女はその線に強く惹かれていた。
仲間たちが恐がる様子を見て、逆にその神秘に迫りたいと思った。
由紀はある晩、月明かりに照らされた橋の端に立ち、下を流れる黒い川を見下ろした。
彼女は深呼吸し、この線を辿る決意を固めた。
彼女が線を踏むと、すぐに周囲は異様な静けさに包まれた。
周囲の音が消え、心臓の鼓動だけが響く。
線を進むにつれて、彼女の背筋に冷たいものが走った。
皮膚を這うような寒気が彼女を襲う。
その冷たさは、まるで誰かが彼女を見ているかのようだった。
道を進むうちに、由紀は朽ち果てた木々や、消えかけた小道の残骸を見つけた。
そして、その先には小さな空き地が広がっていた。
そこには、何本かの真っ白な線が地面に描かれていた。
由紀は思わず線に手を伸ばした。
触れると、冷たく硬い感触が彼女の指を包み込んだ。
その瞬間、由紀の視界が急に暗くなり、気がつくと彼女はかつてないほどの恐怖に包まれていた。
目の前には、薄暗い影の中にぼんやりと現れた無数の顔があった。
それらは、彼女が知らない誰かの顔で、目が虚ろで、生気がなかった。
由紀は恐怖で身体が動かず、ただ無意識に後ずさりした。
影の一つが彼女に近づき、その口を開いた。
「命の線を越えた者は、帰れぬ運命に囚われる。」その声は耳をつんざくような不気味なもので、由紀は一瞬にして心の底から恐怖を感じた。
何が現れたのか、それは一体何を意味するのか、理解に苦しんだ。
彼女は急いで線を引き戻そうとしたが、身体が動かない。
引きずられるように、彼女は黒い影に取り囲まれていく。
目の前の影たちは、彼女が選んだ命の線と引き換えに何かを求めている。
彼女は無意識に生きることの大切さを思い知り、恐ろしいほどの後悔が込み上げてきた。
その時、どこからともなく鳴り響くような声が聞こえた。
「命とは、出会いと別れの連鎖。選ばれし者には、特別な道が待っている。」由紀はそれに救いを求めたが、影たちはその言葉を笑うように暗い声を漏らした。
「あなたは選ぶことができる。命を運ぶか、運ばれるか。」由紀はその選択肢に思わず目を見開いた。
彼女にとって、何が正しい選択なのか分からなくなった。
しかし、彼女はもう一度、意を決して言った。
「私は生きる。私の命を選ぶ。」
その瞬間、影たちの表情が固まった。
彼女は強く線を踏みしめ、心の内から叫び続けた。
「私の命は私のものだ!」すると、影たちの姿が消え、周囲が再び明るくなった。
無事に元の世界に戻った由紀は、線の周りで起こった出来事を思い出し、自分が生きることの意味を深く理解した。
それから彼女は、その道を避けることを決め、仲間たちにその体験を話すことにした。
命の線は、選択し続けることで紡がれるものであり、彼女自身がそれを背負っていく覚悟を決めたのだった。