「命の呪いと妖の囁き」

社の古びた木々の中に、誰も近づかないような小さな社があった。
その社には、昔から「妖」の伝承が語り継がれていた。
近隣の村人たちは恐れを抱き、この場所を避けていた。
しかし、ある日、大学生の健二は興味本位でその社を訪れることにした。
彼は友人の美咲と共に、肝試しを企画していたのだ。

社に近づくと、周囲は妙に静まり返っていた。
風の音も、鳥のさえずりも聞こえない。
健二は少し不安になりながらも、社の入口に立った。
古い鳥居をくぐり、石段を上がり、立派な社殿の前にたどり着いた。
その瞬間、彼は一瞬、背筋に冷たいものを感じた。
しかし、美咲がいたこともあり、健二はその感覚を振り払うように足を踏み入れた。

社の中は薄暗く、静まり返っていた。
健二は持っていた懐中電灯を使って周囲を照らした。
壁には古びた文がチラホラと描かれているが、ほとんどは消えかけていた。
彼はその文字に目を凝らした。
その文は何かの呪文のようで、時折「命」という言葉が現れ、健二の心に不気味な予感を抱かせた。

「これ、なんか不気味だな……」美咲が言った。
彼女は背後に立っていたが、何かに引き寄せられるように社の奥へ進んでいる。
健二もそれに続いたが、すでに彼の中には不安の影が忍び寄っていた。

奥に進むと、小さな穴が開いた壁があり、そこから異様な気配が漂っていた。
美咲がその穴に近づくと、突然、彼女の表情が変わる。
「健二、見て……あの人、誰?」と、指さした先には小さな妖が立っていた。
彼女は黒い袴を着ており、長い髪が肩まで流れている。
その妖は静かに彼らを見つめ、何かを囁いているようだった。

「文が……呪のように……」そんな言葉が耳に残った。
その瞬間、健二は急に身体が重く感じられ、立ち尽くしてしまった。
美咲が意識を失ったように倒れてしまう。
彼の横で、妖が静かに微笑んでいた。
妖の目は彼を真っすぐに見つめ、何かを求めるように見えた。

「命……を……」その言葉が彼の心に浸透していく。
健二は真っ白な感覚に襲われ、自分の視界がぼやけていくのを感じた。
彼はこの場から逃げたかったが、身体が思うように動かない。

突然、妖が手を広げ、さらなる文が空中に浮かび上がった。
そこには「命の呪」に関する言葉が書かれていた。
それは、命を代償に何かを得ること、あるいは他者の命を取ってしまう呪の内容だった。
さらに、彼は薄暗い社の空間に縛られ、周囲の景色が変わり、何かが彼に迫っているのを感じた。

健二は必死に意識を取り戻そうとした。
しかし、その瞬間、目の前に美咲の姿が揺らぎ、彼女が妖にその命を取られる様子が映し出された。
困惑と恐怖が心に広がり、彼は自分が何をすべきか分からなくなった。
命を奪わせてはいけない、彼女を守りたいという思いが強く叫び、彼はあらん限りの力を振り絞り、妖に向かって叫んだ。

「美咲を放せ!」

その瞬間、社が急に揺れ、周囲の空気が変わった。
妖は驚いて彼から目を逸らした。
健二はその隙に美咲を抱え、全力で神社から飛び出した。
茂みを切り抜け、草むらを走り抜け、やがて地面に倒れ込んだ。

二人は無事に外に出たが、社の中での出来事は夢のように思えた。
健二は美咲を抱きしめ、彼女を確認する。
「よかった、無事で……」美咲も目を覚まし、彼に感謝した。

しかし、二人が振り返ると、社の中から妖がじっとこちらを見つめていた。
その妖の目には、どこか寂しそうな光が宿っていた。
「命の呪には、本当に代償がある」と、健二は心の中でつぶやいた。
社から逃げ出したものの、二人は恐怖を忘れることができず、再びその場所に戻ることはなかった。
命の重さ、呪いの影、彼らはそれを背負って生き続けることとなった。

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