舞台は、小さな田舎町にある古い病院。
数年前に廃院となったその病院は、地元の人々に様々な噂をもたらしていた。
特に、夜になると謎の声が聞こえると言われ、そこに近づく者は少なかった。
しかし、大学生の健太と彼の友人たちは、それを逆に楽しもうと計画を立てた。
ある晩、健太たちは懐中電灯を手に、病院に忍び込むことに決めた。
仲間の中には、心霊体験を求める者や、ただの好奇心から参加する者もいる。
彼らは「この病院の噂を真実にしてみせる」と盛り上がる中、実際に病院に足を踏み入れた。
病院内は暗く、かすかな光が差し込む窓からは、かつての面影が薄らいでいた。
廊下はほぼ静まり返っており、距離感を失ってしまうほどの不気味さが漂っていた。
健太は不安を感じながらも、友人たちの笑い声に勇気をもらい進んでいった。
廃墟の奥に進むにつれ、健太は何かに引き寄せられるような感覚を覚えた。
それは、まるで誰かが呼んでいるようで、心の奥に響く声が聞こえていた。
しかし、周囲を見渡しても誰もいない。
彼は気のせいだと思い、皆のもとに戻ろうとしたが、すでに彼の後ろには友人たちの姿が見えなかった。
「どうしたの?健太」と、背後から友人の声が聞こえた。
振り返ると、之前居たはずの仲間が目の前に立っている。
健太は安堵したが、彼の心の中には違和感が残っていた。
「なんで、こんなところに来たんだろう。何か不気味な感じがする…」と感じつつも、彼は無理にその気持ちを振り払った。
その時、彼の目に異様な光景が映った。
前方の廊下の奥に、白い着物を着た女性の姿が見えた。
彼女はどこか悲しげな表情を浮かべており、まるでこちらを見つめているかのようだった。
健太はその女性に引かれるように歩み寄った。
友人たちは何も気にせず、先に進んでいく。
彼女が近づくにつれ、健太はその女性の目が彼をじっと見つめていることに気づく。
無性にその視線が恐ろしい。
心の中の叫び声が大きくなり、彼は発作的に後退した。
「何か声が聞こえたんだ!」と叫ぶと、他の仲間たちも引き返してきた。
「何もいないよ!大丈夫だから」と友人たちはポジティブに言い聞かせ、再び進もうとした。
しかし、健太の心の中では恐怖が膨らむ一方だった。
病院内の空気がどんどん重くなり、次第に時が経つにつれ、彼らの間に不協和音が生まれ始めた。
その後、健太は独りになった。
視界が揺れ、声が耳をつんざくように響く。
周囲の音が消え、ただ一人でいる存在感が彼を圧倒する。
ふと、目の前にあの女性が現れた。
彼女はか細い声で「私を忘れないで…」と囁いた。
それは今でも忘れられない恐怖の一つだった。
運命の夜が過ぎ、朝日が昇り、仲間たちが無事に帰ってきた。
しかし、その後も健太は何かが心の中に引っかかり続ける。
友人たちは楽しそうに話しながら、健太にその夜のことを冗談めかして振り返っていたが、彼はその輪から外れ、ただ沈黙することしかできなかった。
それから数日後、健太の周りで不可解な現象が起こり始める。
彼を呼ぶ声が夜になると無意識に耳に入り、熟睡することができなくなった。
その声に怯え、高い声で叫び続ける自分に、周りからは「大丈夫か?」と心配される始末だった。
健太は次第に病院での出来事が現実だということを理解し、彼の心には揺るぎない恐怖が刻まれていった。
あの女性は一体誰だったのか、何を伝えようとしていたのか。
それは彼の心に重い影を落とすようで、彼はますます逃れられない恐怖に飲み込まれていった。
病院の噂を確かめるために訪れた彼の行動が、今や彼の人生を変えた一つの転機となってしまったのだった。
彼はその夜を決して忘れないだろう。
彼が探求したものは、実際には彼を捕らえる呪いであったことを。