織田翔太は、東京の郊外にある小さな町に住む高校生だった。
彼は、若い頃から友人たちと一緒に心霊スポット探検を楽しむことで知られていた。
特に、町外れの古い神社が有名で、言い伝えによると、その神社には異界と繋がる場所があるという。
ある日、翔太は仲間たちと一緒に、その神社に向かうことにした。
神社には、昼間でも薄暗い雰囲気が漂っていた。
立派な鳥居をくぐると、樹々がうっそうと茂り、忘れ去られたような静けさに包まれていた。
仲間たちと一緒に境内を散策するうち、翔太はふと、他のメンバーが興味を惹かれる場所に目を留めた。
それは、神社の奥にある大きな社の前に落ちていた古びた燈籠だった。
好奇心に駆られた翔太は、燈籠に近づき、手を伸ばした。
すると、その瞬間、突然、激しい風が吹き荒れ、燈籠の周囲が真っ白な光に包まれた。
仲間たちは驚き、翔太に何が起こったのか尋ねたが、彼の心は不安でいっぱいだった。
彼は光に引き込まれそうな感覚に襲われ、気を失いそうになった。
意識が戻ると、翔太は異次元とも言える場所に立っていた。
周囲はどこまでも続く霧に覆われ、何も見えない。
彼は恐れにかられながらも、歩みを進めた。
その時、彼の耳に微かな声が聞こえた。
「翔太、私を助けて…」その声は、彼が忘れることのできない幼馴染、香織の声だった。
香織は、数か月前に不幸な事故に遭い、この世を去っていた。
翔太は胸が締め付けられる思いで彼女の名を呼びかけた。
「香織、どこにいるんだ!」すると、目の前に淡い光の柱が現れ、その中から香織の姿が現れた。
彼女は困惑した表情で翔太を見つめていた。
「助けて、私はここから出られないの…」
翔太は信じられない思いだった。
しかし、幼馴染を助けたいという思いが勝り、彼は香織の側に駆け寄った。
「大丈夫、僕が必ず助けるから!」彼はその瞬間、香織の元に伸ばした手が、彼女の体を通り抜けてしまったことに驚愕した。
彼女は実体を持たない存在であり、もはやこの世界に縛られた浮遊する影だったのだ。
「翔太、お願い、私を呼んで…」香織の声が響く。
彼女の悲しみは痛いほど伝わってきた。
翔太は、何か方法があるはずだと必死に考えた。
「もう一度、言ってみて。僕の声をしっかり聞いてくれ!」翔太は心の底から香織の名前を叫んだ。
その瞬間、周囲の霧が一瞬晴れ、翔太の目の前には緑の森と白い鳥居が見えた。
彼はその方に走り出し、香織を引き戻したい一心で駆け出した。
「香織、戻っておいで!一緒に帰ろう!」
だが、彼の足元が崩れ、その下には大きな穴が開いていた。
翔太は咄嗟に後ろを振り返ったが、香織は深い闇の中に吸い込まれ、彼に向かって手を伸ばしていた。
翔太は絶望感に襲われ、もう一度香織の名を叫んだ。
「香織!」
その時、彼の手が突然に強い力で引かれ、軽い衝撃と共に目を閉じた。
気がつくと、翔太は再び神社の境内に戻っていた。
彼の手には、まだあの古い燈籠が握られていたが、香織の姿はどこにもなかった。
彼は仲間たちに急いで事情を説明したが、彼らは一様に怖がりながらも、現実を信じることができなかった。
翔太は一人、香織の声を思い出しながら彼女を助けられなかった無力感に苛まれ、神社から離れることができなかった。
毎晩、翔太は夢の中で香織の顔を見る。
「翔太、私のことを忘れないで…」彼女の声が耳に残り、翔太はその声に導かれるように、今でもあの神社に足を運び続けている。
彼は燈籠を再び点灯させ、光を求めて香織の名を呼ぶ。
いつか、彼女をこの世に引き戻すために。