「呪文に囚われた教室」

失われた魂の呪いが、静寂の上に訪れる。
舞台はかつて栄華を誇った、古びた村の学校。
数十年の時を経て、業を背負った教師の名が忘れ去られた、その学校には、いまだに放課後の教室に居座る彼女の影があった。

ある日、高校の文学部に所属する若き生徒たちが、廃校となったその学校の探検を計画した。
彼らは興味本位で、そこで語り継がれる怪談を確かめるために、その場所を訪れた。
村の人々は何かを恐れてか、近づくことを避けていたが、彼らにはそれが反発心となり、闇を探る冒険への好奇心を掻き立てた。

夜、懐中電灯の光が薄暗い廊下を照らす。
風が窓を叩くたびに、かつての教室から溢れ出した記憶が不気味にささやく。
教室のドアを開けた彼らは、薄暗い空間の中に数組の机と椅子が整然と並んでいるのを見つける。
空気は重く、何かがそこにあると感じながら、彼らは慎重にその場所に足を踏み入れていった。

一人の生徒が、掲示板に残された古い掲示物に目を奪われる。
そこには、使い古された字で、呪いのように書かれた言葉が浮かび上がっていた。
「失われた魂、一つの代償を払うがよい」。
彼はその内容に興味を持ち、他の仲間に教えようとした瞬間、不気味な風が吹き抜け、彼の周りに裂け目のある暗い影が生まれた。

その瞬間、彼は自分が見たものを信じられなくなった。
教室の中で、急に文字がぐにゃりと変形しだしたのだ。
先ほどまで掲示板に記されていた呪文が、まるで生きているかのように、彼の目の前で踊り出す。
彼の心臓が高鳴り、仲間たちが恐れを抱く顔を見ると、絶望的な気持ちが彼を包む。
恐怖に駆られた彼は、一瞬、言葉を発した。
「これ、何か起こるのか?」その問いかけは、夜の静けさを一層深めた。

一人の女子生徒がその場から後退ると、彼女の目の前で突然、冷たい風が吹き抜け、空気が歪んでいく。
出現する影が彼女の方向へ進んで行く。
その影はまるで、失われた何かを求めるかのように、彼女の奥底に響く声を持っていた。
「私の名を知っているか? 私は、ここに囚われた魂だ。」彼女は凍り付いたように動けず、ただその視線を受け止める。
彼女の心の中には、見知らぬ恐怖が渦巻いていた。

一方、掲示板に描かれた呪いの言葉が強まるにつれ、彼らの間に不協和音が生じていく。
仲間は次第に疑心暗鬼に陥り、それぞれの行動に不安を抱く。
彼は自分が取り残されているように感じ、冷静さを失い始めていた。
その時、彼が掲示された字を再び見つめると、理解が深まっていく。
「失われた魂」とは、ほんの悪戯ではなく、彼らの心の中に潜んでいたものだと。

暗闇が襲い、文字たちが宿る力で波のように押し寄せる。
仲間たちは一斉に走り出し、逃げた。
風は彼らの後を追い、教室内に残されたその口無言の影は、無情にも彼を捕らえた。
絶望的な声が夕闇に溶けこむ。
「申し訳ありませんが、あなたが代償を払うのです。あなたの魂は、私のものになるのです。」

彼は必死にそれを拒否し続けたが、その瞬間、彼の記憶の中から色々な思い出がすり抜けていく。
喜び、悲しみ、すべてが、魂の代償として呑み込まれていった。
文字の呪いに抗えなくなった彼は、その時初めて、すべての思い出が空の彼方に消えていく恐怖を味わうことになった。

村人の訴えが正しかったことが、彼の心に染み渡る。
文字に呪われ、思い出も失い、彼は闇の中で永遠に語られることなく、その場に残されたのだ。
彼の仲間たちは、彼のことを忘れていくことに決めるが、彼の叫び声が耳に残る。
その場を離れた後も、心の片隅には彼が求められていたことが、深く刻まれていくのであった。

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