田舎の村、辺(あた)という場所に、長い間誰も住まなくなった古い家があった。
その家は、崩れかけた外壁と荒れた庭、そして窓には常に埃が積もっている様子が、まるで誰かの呪いでもかかっているかのようだった。
村人たちは決してその家に近寄ろうとはせず、そっとその存在を忘れようとするかのように日常を送っていた。
主人公の恵(めぐみ)は、大学生になり、友達と一緒に心霊スポット巡りをすることに夢中だった。
休日になると、彼女は友人の健(けん)や美咲(みさき)といった仲間たちと、ぞんざいな噂に興味を持ち、村の中で一番忌み嫌われていた辺の家を訪れることにした。
「私たち、あの空き家に行こうよ!」と恵が提案する。
友人たちは少し躊躇ったが、彼女の強気な言葉に押されてしまい、結局その場に行くことに決定した。
夜中、3人は懐中電灯を持って辺の家の前に立った。
月明かりに照らされた古びた家は、どことなく不気味な雰囲気を醸し出していた。
「本当に入るの?」美咲が恐る恐る尋ねる。
恵は自信満々に「大丈夫だよ、足を踏み入れたことがある友達の話では、別に何も起こらなかったって」と言う。
しかし、健はなんとなく心配そうだった。
「この家、村の人たちが話すように呪われているって可能性もあるかもしれないよ」と弱気な意見を述べる。
しかし、恵はその言葉を無視して、玄関のドアを押し開けた。
家の中は薄暗く、壁にはカビが生え、家具はほとんどが朽ち果てていた。
3人は慎重に中を進み、リビングルームにたどり着く。
「うわ、何これ…」美咲が恐る恐る言った。
そこには古い鏡があり、表面には薄く埃が乗っていた。
恵は興味を持ち、鏡に近づいて掃除し始めた。
しかし、彼女が鏡を撫でると、鏡の中には不気味な影が映っていた。
それは、その場の誰のものでもない、ただの影だった。
「見て、何か映ってる!」恵の声が響き渡る。
その影はまるで恵の動きに合わせて動くように見えた。
彼女は近づいてみたが、恐怖で動けなくなった。
「やめようよ、もう帰ろう」と健が言ったが、恵はその場から動こうとしなかった。
「呪われているって、本当なのかもしれない…」彼は背筋が凍る思いを抱いていた。
その時、鏡の中の影が徐々に形を成し始め、恵の耳元で囁いた。
「助けて…永遠にこの場所に縛られているの…」。
その声は、透明で澄んだ響きだった。
恵は驚愕し、後ずさりした。
美咲も恐怖に震えていた。
「何かが呼んでいる…私たちを呪おうとしているんだ!」彼女が叫ぶと、健は冷静になることに努めた。
「行こう、さっさとここを出よう!」
しかし、恵だけはなかなか動けなかった。
まるで影が彼女の心に触れ、何かを伝えようとしたかのようだった。
「私の意志を受け入れて、解放して…」その言葉は恵の心の奥深くに響き、彼女は次第にその影の存在を理解しようとしていた。
「あなたの思いを受け入れ、心の中で解放してあげる」。
恵は、思わず鏡の中の女性に手を伸ばした。
その瞬間、空間が眩しい光に包まれ、周囲の風景が変わった。
彼女は薄暗い家の中から、異次元のような解放感を得た。
影の女性が明るい光の中へと消えてゆくのを見ながら、恵は涙を流した。
自分の心の中に重く残っていたものが解放されたのだと理解した。
気がつくと、彼女は再び鏡の前に立っていた。
影の女性の姿は消えて、部屋には静けさが舞い戻っていた。
恵は友人たちと共に後ずさりしながら、再びその家を振り返ることはなかった。
しかし、彼女の心の奥深くには、その影の存在がいつまでも残り続けていた。
そして、忘れられない呪いのような思い出は、彼女たちの絆を永遠に結びつけていた。