「呪われた花園」

秋の初め、陽が柔らかく照らす日曜日、玲は小さな公園に足を運んだ。
静かに風が吹き、周囲の木々がさわさわと揺れている。
彼女はここに来るのが好きだった。
色とりどりの花が咲き誇り、どこか落ち着く空間だったからだ。

しかし、その日、玲はいつもとは違う不安を感じていた。
彼女の友人である香織が、この公園で何か恐ろしい経験をしたという話を聞いたからだ。
香織が言うには、「花が咲いているのに、それに触れることができない」という奇妙な現象が公園の奥で起きるということだった。

玲は好奇心に駆られ、花たちに触れられないというその場所へ向かうことにした。
公園を奥に進むに連れて、空気が重くなり、不気味な静けさが広がっていった。
玲は背筋に冷たいものを感じながらも、心の奥で好奇心が勝っていく。

しばらく歩いた後、玲は異様な光景を目にした。
見渡す限り、色とりどりの花が咲き乱れているが、花弁はどれも異常に黒く、電気のようにひかる光を放っている。
彼女はその瞬間、香織の話を思い出した。
「触れてはいけない」という声が脳裏に浮かぶ。

しかし、玲は一歩踏み込んでその花に近づいた。
黒い花弁が妖しげに揺れ、まるで自分を呼んでいるかのようだった。
「大丈夫、触れてみよう」と自分に言い聞かせた。
だが、触れた瞬間、目の前が真っ暗になり、彼女は驚きでその場に立ち尽くした。

その時、玲の耳に微かな声が聞こえた。
「戻ってきて、私に触れて…」それは、まるで花たちの声のようだった。
玲は恐れを抱きながらも目の前の現象に釘付けになり、恐ろしい一歩を踏み出した。
再び花に手を伸ばすと、周囲から電撃のような閃光が走り、体中にビリビリとした感覚が広がった。

その刹那、玲は子供の頃の思い出を漂わせるフラッシュバックに捕らわれた。
彼女は、亡くなった祖母の顔を思い出した。
祖母はかつて、花には「実」を結ぶ力が宿り、忘れ去られた思い出を蘇らせることができると教えてくれた。
しかし、その力が呪いに変わることもあるとは言われていた。

玲は恐怖に駆られ、「香織の言ったことが本当だったのか」と慌てて後ずさりした。
しかしその時、彼女は気づいた。
周囲が急に静寂に包まれ、黒い花たちが彼女の意識に直接訴えかけてきたのだ。
恐れは徐々に悲しみに変わり、花たちの中に宿る思いが、玲の心に重くのしかかってきた。

彼女は呪われたように、その場から動けなくなった。
戻りたいと思う気持ちとは裏腹に、花たちの存在が彼女の心を飲み込んでいた。
やがて、彼女は思い出した。
あの日、香織もこの公園に来ていたのだ。
彼女は花とともに生きようとしたが、運命は彼女を呪ってしまったのだと。

結局、玲はその場から逃げられず、彼女の意識は深い闇に沈んでいった。
そして、暗い花たちは彼女に囁いた。
「私たちを忘れないで。私たちがいる限り…帰れないから。」

彼女は静かに、その場所に呪縛されてしまった。
公園は今も変わらぬ風景を保ち、花たちが日々誰かの心を呼び寄せ続けている。
彼女たちの声は、今も静かに園の中で響いているのだった。

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