舞台は、昔から村人たちに忌み嫌われてきた「れ」という名の屋敷。
そこは村のはずれにひっそりと佇み、朽ちかけた木々に囲まれていた。
二度と誰も訪れぬような場所ではあったが、この屋敷には一つの伝説があった。
かつては裕福な家に住まう子供たちにとって避けては通れない場所であり、屋敷の中には一つの「秘宝」が隠されていたという。
時間が経つにつれ、それは「呪い」の象徴へと変わってしまった。
ある日、村に住む若者、創(はじめ)は、その伝説に興味を持ち、友人たちを誘って屋敷を訪れることにした。
創は幼い頃から怪談や心霊スポット巡りが好きで、その腕を試す絶好の機会と感じたのだ。
友人たちは最初こそ怯えていたが、創の熱意に引き込まれる形で屋敷の前に立った。
その日は雨が降りしきる暗い日で、周囲は薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
創は意を決して扉を開け、皆と共に屋敷の中へと足を踏み入れる。
屋敷の中は、薄暗く湿っぽい匂いが漂っていた。
カビた壁や不気味に揺れる窓、古い家具が無造作に置かれている様子に、友人たちは一層不安を募らせていた。
だが、創はそんな様子を微笑みながら見つめていた。
「今日は特別な日になるぞ。まず、この場所の真実を知ろう。」
彼らは廊下を進み、いくつかの部屋を探索したが、何も見つからなかった。
創は意外とあっけなく感じ、少しイライラする。
だが、彼は諦めず、屋敷の奥へと進むことを決意した。
奥の部屋に入ると、そこにはずらりと本が並んだ巨大な書棚があった。
一際目を引いたのは、中央に置かれた、それ自体が神々しいような「れ」の文字が刻まれた古びた箱だった。
創は興奮し、友人たちに向かって言った。
「これがその秘宝かもしれない!」
しかし、友人たちはその箱に近づくことをためらった。
「やめろよ、これには何かあるんじゃないか?」一人の友人が言ったが、創は意に介さずに箱を開けようとした。
すると、その瞬間、まるで止まっていた空気が一気に動き出したかのように、周囲がざわめき始めた。
本棚がガタガタと揺れ、古びた書物が次々と床に落ちる。
友人たちは恐れをなして、屋敷の出口へと走り出したが、創は驚きを隠せなかった。
「何で、こんなことが…?」
その時、耳元で低く囁く声が聞こえた。
「あなたたちも、秘宝を求めてここに来たのか?」それは、見えない何かの声。
創は心臓が高鳴り、背筋が凍るのを感じた。
「早く出よう!」友人の一人が叫び、創もやっと我に返った。
友人たちに引きずられながら、必死に出口を目指す。
だが、奥の部屋への道は、いつの間にか閉ざされていた。
彼らは恐怖に駆られ、再びその部屋へと引き戻されてしまった。
「私たちは、あなたたちを迎えに来た。」その声が再び響く。
暗がりから一つの影が現れ、創たちを見つめている。
影は、まるでこの屋敷の一部であるかのように、冷たく輝く目を持っていた。
友人たちは、恐怖に凍りつき、どうすることもできなかった。
創も、彼らに助けを求めようとするが、口が重くて言葉が出てこない。
やがて影は近づき、創の耳元で囁いた。
「あなたが求めていたのは、この屋敷の中にしかない。あなたの心の奥底に眠る真実を掘り下げるのだ。」そう言い終わると、影は創を引き寄せ、次第に彼も別の存在へと取り込まれていく。
「助けてくれ!」創の声が響くが、友人たちは恐怖で立ち竦み、ただ見守るしかなかった。
暗闇の中で、創は次第に意識を失っていった。
そして気がつくと、彼は屋敷の外に倒れていた。
友人たちは彼を見下ろし、恐怖に震えていたが、創の目には何か別のものが映っていた。
「もう、戻れない…」彼の目の中には、かつて「秘宝」を求めて屋敷に訪れた人々の影が映っていた。
そしてその時、自分もまた、屋敷の「一部」になってしまったことを悟った。