「呪われた折れ木の影」

ある夏の夜、田舎町の古びた集落に住む太一は、友人たちと一緒に肝試しに出かけることになった。
その夜、集落の近くにある「地の洞窟」と呼ばれる場所へ足を運んだ。
地元の人々の間では、その洞窟には「折れた木を割った者は呪われる」という言い伝えがあった。
太一は少嘲笑いながらも、好奇心を持って洞窟の入口に立った。

洞窟は薄暗く、湿気のある空気が漂っていた。
照明を持った友人たちが次々と中へ入っていくと、太一も後に続いた。
洞窟の中は異様な静けさに包まれており、声を上げた友人の声が反響するだけだった。
この時、太一の心にはなんとなく不安が広がっていた。
しかし、仲間たちの笑い声や興奮に誘われ、彼はその感情を振り払った。

深く進むと、洞窟の壁には小さな折れた木の彫刻が無数にあり、まるで目がこちらを見つめているかのように感じられた。
その中に一本、特に大きな割れた木の彫刻があった。
ドキドキしながら近づき、触れてみると、急に冷たい風が吹き抜け、洞窟の奥から甲高い声が聞こえた。
「割れた者が来た。」

一瞬、全員が凍りついた。
仲間の一人、健二が「行こうぜ!」と叫び、皆を引っ張って進む。
しかし、その瞬間、太一は立ちすくむ。
「これ、なんかおかしい…帰ろうよ。」と言ったが、仲間たちは興奮しつつ、どんどん進んでいった。
彼の心には「暴れ者が待っている」と警告するような声が響いていた。

次第に洞窟は暗く、歩くにつれて冷たさが増していった。
「これ、昼間に来たら全然違うよな」と冗談めかした健二の言葉が、今は不気味に響いた。
すると、次の瞬間、ひどい地響きが響き渡り、彼らは転んだ。
太一は恐怖に駆られながらも、他の仲間の元へ行こうとしたが、恐ろしい声が空気を引き裂いた。
「折れた木を割った者よ、還れ!」

全員がその声を聞いた瞬間、洞窟の壁が揺れ、ひとつの黒い影が彼らの目の前に現れた。
その影は、小さく壊れた木々が渦巻くように姿を成し、彼らに向かって手を差し出していた。
「お前たちがこの場所に来る理由はただ一つ。私に捧げよ、命を。」

恐怖心から逃れるため、太一は洞窟の出口へと向かおうとした。
その瞬間、運命の悪戯か、仲間の一人、優子が影に引き寄せられてしまった。
彼女は叫び続けたが、声は洞窟の奥へと吸い込まれていった。
太一は仲間が次々と消えていくのを見ながら、彼自身も引き寄せられそうになる恐怖と闘っていた。

「急いで逃げよう!」太一は必死に叫んだ。
しかし、出口付近には強烈な力が働いていて、彼らを捕らえようとする影が迫っていた。
戻ることはできず、友人たちが袋小路に追い込まれてしまった。
太一は恐怖と悲しみにおそわれながら、どうしようもなく出口へと走った。
自分だけでも逃げなければならないと、決心した。

ついに洞窟の出口が近づき、太一は意を決してその場を飛び出す。
後ろで友人たちの悲鳴が響き渡る音を振り払うように、全力で走った。
外の世界へ出ると、月明かりが照らす野原に出たが、後ろを振り返ると、洞窟の入口は元の姿に戻り、すでに仲間の声は聞こえなかった。

太一は静まり返った夜の中で、呆然と立ち尽くしていた。
誰も来ない静けさが彼の心に重くのしかかり、去って行った仲間たちを思い出した。
そして、心の奥底に無言の恐怖が芽生え、彼は「地の洞窟」の存在を決して忘れないのだと感じるのだった。

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