「呪われた思い出」

彼の名は健太。
東京で普通のサラリーマンとして働く彼は、毎日忙しい日々を送っていた。
ある日、仕事が終わった後、ふと思い立って、昔住んでいた田舎町に帰ることにした。
思い出の場所を訪れることで、少しでも心を癒し、疲れた心をリフレッシュしたいと思ったのだ。

健太が故郷に着くと、空気はどこか懐かしい匂いを漂わせていた。
しかし、彼が期待していた温もりではなく、どこか冷たい感触を持つものだった。
彼の故郷は、数年前に大きな火事に見舞われたことがあり、家々は跡形もなく焼け落ちてしまっていた。
そして、亡くなった人々のことで町は悲しみに包まれていた。

健太は昔遊んでいた公園に足を運んだ。
そこには、今はただの広場と化した場所が広がっていた。
彼の記憶の中にあった遊具や木々は姿を消し、不気味な静けさが支配していた。
そこで、彼はふと不思議なことに気がついた。
目の前に突然、あの子供の頃の友達、拓海の姿が浮かんできたのだ。
拓海は彼が唯一、心を開いて話せた友人であり、彼と一緒に遊んでいた楽しい日々は今でも彼の心に深く刻まれている。

だが、拓海は数年前の火事で命を落としてしまった。
それを思い出すと、彼の胸は締め付けられるようだった。
そんな折、健太の視界に金色の光が差し込み、彼は無意識にその方向に進んでいった。
そこには、古びた神社があった。

神社の境内には、朽ちた鳥居が立っており、周囲には誰もいない。
彼は不安を感じながらも、その神社に引き寄せられるように進んだ。
その瞬間、彼の中に響くような声が耳に飛び込んできた。
「助けて…。」それは明らかに拓海の声だった。

健太は驚き、周囲を見回した。
しかし誰もいない。
彼の心に残るのは、ただ拓海の声だけだった。
その声に導かれるように、彼は神社の中央に進み、心の奥底にかつての友への想いを解き放とうと目を閉じた。
「拓海、どこにいるの?」と叫ぶように呼びかけた。

すると、再び声が響いた。
「私はここだ、健太。君の心の中に呪いがある。」呪い?その言葉に健太は強い不安を抱いた。
拓海の声は、彼が抱える心の傷に深く触れた。
そして、ふっと彼の中に何か不気味な感覚が広がった。
なぜ、拓海が自分に呪いを語るのか。
その理由を知りたいと思った。

心を静め、目を閉じていると、再び幻影が現れた。
拓海の姿は見えないが、その声が彼の中で生き続けている。
「火事の時、私の思いが強すぎて、君の心に呪いをかけたんだ。私を忘れないで欲しいという思いが、君を縛っている。」その言葉に、健太は心の底から痛みを感じた。

拓海を忘れ去ることはできないはずだ。
その思いが彼を苦しめているのか。
彼は自分の心を見つめ続けた。
すると、拓海の声はさらに強くなった。
「思い出を心の中で大切にしながら、前に進んで。私が助けるから。」

その瞬間、健太は理解した。
思い出は美しいものであり、彼が生き続けていくための支えになるべきだ。
拓海との思い出を呪いにするのではなく、彼を忘れずに生きることで、彼の存在を次の段階に引き上げることができる。

心の呪いが解けると、そこにあった冷たい感触は消え、世界が明るく変わっていった。
健太は再び目を開け、神社の鳥居をくぐり抜けて外に出た。
何度も心の中で拓海に別れを告げ、彼を解放することを決めた。
これからは友人との思い出を胸に、前に進んでいく。
健太は心の奥底で拓海がいつでも見守ってくれていることを感じながら、新たな一歩を踏み出したのだった。

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