静かな海に囲まれた小さな島、名もなき島があった。
その島には、古くからの伝説が伝わっていた。
島の中央には、朽ち果てた神社がひっそりと佇んでおり、村人たちはそこを恐れ、近づくことを避けていた。
特に秋の訪れと共に、神社の存在感は一層増し、村人たちの心に不安を埋め込んでいった。
ある日、大学から帰省した一樹は、島に残る友人、健太と美咲と共に神社の噂を確かめることにした。
「ただの迷信だろう。行ってみようぜ」と、一樹は好奇心に駆られ、二人を誘った。
健太は「でも本当にいいのか?あそこには行かない方がいいって言われてるだろ」と慎ましげに言ったが、美咲は「気にしないで、行ってみましょう!」と積極的だった。
太陽が沈みかけ、薄暗くなっていく中、三人は神社へと向かった。
冷たい風が吹き抜け、木々のざわめきが耳を劈いた。
神社に近づくにつれて、周囲の空気は重く、異様な静けさが彼らを包み込んだ。
石の鳥居をくぐった瞬間、彼らの心に不安が広がった。
神社の中は黒々とした影に覆われ、月明かりが差し込む隙間も少なかった。
一樹は「これが噂の神社か…」と呟いたが、健太の顔は恐怖で歪んでいた。
「こんなところにいるのが、俺には無理だ」と言って、一歩後ずさりする。
美咲は神社の奥にある祭壇に歩を進めた。
「見て!この像、何だか不気味だけど、すごい!」だが、彼女の声が響いた瞬間、周囲からは低い囁き声が聞こえてきた。
「帰れ…帰れ…」それはまるで、島そのものが発しているような声だった。
「今の、聞いた?」一樹が顔を見合わせると、健太は震えながら「やっぱり帰ろう、お願いだから」と急に怯えだした。
しかし美咲はその声に魅了されたのか、背けることができずにいた。
「もう少しだけ、ここにいてもいいよね。」
その時、一樹は何か異変を感じた。
神社の影が彼らの周りで動いているように見え、まるで彼を狙っているかのようだった。
健太がいち早く逃げることを決意した時、美咲は祭壇に近づき、「助けて…」と無意識に口にしていた。
目の前に現れた影は、彼女の言葉に反応するかのように、形を変えながら近づいていった。
突然、祭壇から放たれた光が三人を包み込み、次の瞬間、健太が叫んだ。
「なんだこれ!?逃げよう!」しかし、一樹はその場に立ち尽くしていた。
「あなたたち、私を求めているの?」その声は美咲の耳に直接響くように感じられた。
影はゆっくりと彼女を取り囲み、その冷たい触覚が彼女の心を掴んでいく。
恐怖の中で彼女は「お願い…助けて」と呟いたが、その言葉は薄れていく。
その後、影が美咲を吸い込むかのように包み込み、彼女は一瞬で消えてしまった。
健太は絶叫し、神社を飛び出して逃げるが、一樹も後に続く。
彼らは村に帰り、神社のことも、美咲の姿も忘れたかのように日常が戻る。
しかし、心の中には、消えた友人の声がこだまし続けた。
秋の夜が深まる中、島には不気味な静けさが戻り、「戻れ」と声をかける神社の影は、次なる犠牲者を待ち続けている。
いまも、村の人々は「神社には近づいてはいけない」と語り継いでいる。
それは、島の真実を知る者が少ないからだった。