一度は訪れたことのある洋風の家。
田村浩介は、久しぶりに大学の友人たちと集まるため、その家に足を運ぶことにした。
彼は子供の頃からこの家が好きだったが、何故か心のどこかで不安を感じていた。
特に、祖父の代から受け継がれているという古い家は、常に彼に不可解な感覚をもたらしていたのだ。
集まった友人たちと食事をし、楽しい時間を過ごしていると、急に家の空気が変わった。
誰もが感じた不気味な静けさ。
会話が途切れ、窓の外を見つめていると、何もないはずの廊下の奥からほのかに歌声が聞こえてくるのだ。
友人たちは笑って誤魔化そうとしたが、その声は次第に大きくなり、子供の歌のように耳に響いた。
怖くなった浩介は、皆に「ちょっと見てくる」と言い、廊下へと足を踏み入れた。
廊下は薄暗く、壁にかけられた古い絵画や写真が無言のまま彼を見守っている。
彼は歌声のする方へ進むと、目の前に開いた扉が現れた。
その扉は、家のどの部屋とも違う、一瞬不自然なほどに存在感を放っていた。
「戻って、浩介。」その瞬間、耳元で冷たい声が響いた。
思わず足を止めるが、引き寄せられるように扉を開けた。
中に入ると、異様な雰囲気が漂っていた。
部屋は古びたままだが、なぜか心地よい香りが満ちており、誰かがここで待っているかのような温かさがあった。
彼が床に目をやると、そこには小さな子供たちの足跡が描かれていた。
そしてその先には小さな黒い点が、確かに人の目を引くように渦を巻いていた。
浩介は目を細め、思わず近づいてしまう。
すると、黒い点が彼の視線を引きつけるかのように動き始め、彼の手に触れた。
その瞬間、意識が混乱し、視界がゆらりと揺れた。
目を閉じ、気がつくと彼は家の中にいる。
しかし、周りは空虚で、友人たちの声がまるで遠くに聞こえた。
ふと気づくと、彼の姿は薄れていき、自分の過去が次々と映し出されていく。
子供の頃、友人と遊んだ思い出、家族と過ごした瞬間。
そして、心の奥にしまい込んでいた邪悪な思い出。
「戻れ、浩介。」再びあの冷たい声が響いた。
彼はその声に引き寄せられるように、かつての自分に向かって進み始めた。
無視していた記憶が、思いがけない形で彼を襲ってきた。
そして、彼が特別に親しいはずの友人たちとの関係が、実は彼自身の未解決の罪であることに気づかされる。
「呪いを解け、浩介。」その言葉は、過去から続く影が彼の心を包む響きとして響いた。
彼は思い出す。
友人を裏切り、傷つけ、それを認めようとしなかった自分。
彼の罪は、彼自身だけでなく、周囲の人々の心にも影響を及ぼしていたのだ。
過去の記憶が溢れ出し、彼はすべてを受け入れることを決心した。
その瞬間、太陽の光が再び彼を包み込んだ。
浩介は次第に透明な姿に戻り、そこには彼の周りにいる友人たちの姿も見えなかった。
彼は目をそらさずに、幼い彼自身と向き合った。
優しい声で語りかけると、彼の心は次第に穏やかさを取り戻していった。
過去を受け入れ、再生する勇気を持つこと。
それが彼に与えられた使命であることを理解したのだ。
浩介は静かに、再びその洋風の家に戻ってきた。
友人たちのの笑い声が響く中で、彼は自分の心の闇を受け入れ、過去から解放されたような気持ちになった。
人々との絆を大切にすることで、新たな未来を築いていこうと彼は心に誓った。