古い町外れにある小さなアパートが、引っ越してきたばかりの佐藤まゆみの新しい住処だった。
彼女は大学生活を送る一人暮らしの女子学生で、周囲との関係を気にせず、ひたすら勉強に専念する日々を送っていた。
そんなある日、まゆみは隣の部屋から微かに聞こえる声に気づいた。
「まゆみ、あの子だけずるい…」その声は、切羽詰まったようでどこか無邪気さを失った響きがあった。
まゆみは驚いて耳を澄ませる。
どうやら隣には、同じ大学に通う鈴木美咲という女子が住んでいるようだった。
美咲は、周囲の注目を常に一身に集める、美しく派手な子だった。
まゆみは美咲とは正反対の存在とも言える。
日々の生活の中で、美咲の「呪い」のような囁きがまゆみの耳に詰め込まれていった。
「私を見ないで、彼女ばかり見ないで…」その言葉は妬みや嫉妬の色を帯び、徐々にまゆみの心に影を落とし始める。
彼女は自然とその言葉に引き込まれ、重苦しい空気に包まれた。
ある晩、まゆみは何かに引き寄せられるように、美咲の部屋のドアを静かに開けた。
薄暗い部屋の中には、美咲が鏡の前で自分を眺めている姿があった。
彼女の目はまるで何かに取り憑かれているように光っている。
まゆみはその瞬間、恐ろしい直感に襲われた。
「あれは…妬み…?」
そのまま美咲の視線に惹かれ、まゆみは何も言えずにその場から後退った。
すると、美咲の声がまるで地獄の奥底から響いてくるように聞こえた。
「出てこないで、私を怨んでるの?」その次の瞬間、部屋のインテリアが揺れ、壁が軋む音がした。
何かが解き放たれようとしているような気配が、まゆみの心の奥を揺さぶった。
次の日、まゆみはいつも通り大学に行ったが、周囲の視線が異様に感じられた。
友人たちが美咲に話しかけたり、一緒に笑ったりする様子を見て、自分がそこにいないかのような疎外感が押し寄せてきた。
彼女の心の中には、ますます美咲への嫉妬が渦巻いていた。
その夜、まゆみは再び美咲の部屋の前に立つ。
今度は自分の気持ちを確かめるために、そして彼女の妬みの正体を暴くために。
ドアをノックすると、美咲が開けてくれたが、その表情は無邪気さの影が薄れていた。
「どうしたの、まゆみ?」
その瞬間、まゆみは吸い込まれるように美咲の部屋に入り込んだ。
すると、部屋の光が一瞬消え、闇が彼女を包み込む。
美咲の微笑みが不気味なものに変わり、背後から彼女の声が聞こえた。
「私にねたむ気持ち、よくわかってるよ。」
その時、まゆみの目の前に現れた光景は、まるで悪夢の中の景色のようだった。
美咲の背後には、彼女の嫉妬が具現化したかのような黒い影が渦巻いていた。
その影はまゆみを飲み込もうとして、彼女に向かって伸びてくる。
「私を引き込むつもり?そんなの許さない!」まゆみは恐怖を抱えながらも、意を決して言った。
美咲は驚いたような表情を浮かべ、その瞬間、影はまゆみの心に入り込もうとした。
彼女は全身の力を振り絞って、妬みの力に抗おうと必死になった。
だが、その瞬間に、不意に美咲が崩れ落ちた。
彼女の顔には憎しみや妬みが消え、ただの少女の表情が戻ってきた。
「私は…もう…逃げられないの…」美咲の声は弱々しかった。
まゆみはその言葉に胸が締め付けられるようだった。
だが、まゆみは一歩引きながらも、妬みに囚われた美咲の姿を見守るしかなかった。
美咲は静かに消えていく影にのみ込まれ、その姿は再び戻らなかった。
数日後、町には美咲の姿が見えなくなり、彼女の存在が消えたかのように周囲は静かになった。
周りの人々はただささやき合っていたが、まゆみの心には美咲への同情と、妬みの力の恐ろしさが交錯していた。
そして、彼女は一人、あの日の出来事を思い出しながら、忘れないと誓った。
どんなに強い妬みでも、それを乗り越えることができると信じて。