「呪われた人形が語る、放たれた想い」

夜も更け、月明かりが静かに照らす古い寺院の境内。
寺の裏手には長い間放置された廃屋があり、その存在を知る者は少なかった。
近くに住む村人たちは、そこを呪われた場所だと恐れていた。
噂によると、数十年前にこの屋敷で家族が滅多にない事故にあい、以降その家は誰も近づかなくなったという。

その夜、大学のサークル仲間である佐藤と田中、そして鈴木の三人はテストのストレスを発散するために、肝試しに廃屋へ向かうことにした。
佐藤は冷静な性格で、田中は好奇心が強いタイプ、鈴木は少し怖がりなところがあったが、友人たちの挑発に乗る形で、強がってついて行くことにした。

月明かりの下、彼らは廃屋の前に立ち尽くした。
周囲は静まり返り、風の音さえ聞こえない。
佐藤は一歩踏み込むと、扉がきしむ音を立てた。
その音に背筋が寒くなる鈴木は、心のどこかで逃げ出したい気持ちを抱えながらも、友人たちに突き動かされる。

屋内に入ると、埃まみれの家具や倒れた灯篭が散乱していた。
古びた壁には、何かが描かれたような線が見えた。
それはいつの時代のものかわからないが、どこか不気味な印象を与えた。
佐藤はその線を手で触れ、「これは古いお守りの絵だ」と言って、友人たちに説明した。
彼の明るい声が廃屋の静寂を破る。

田中は屋根裏への階段を見つけ、「上に行ってみよう」と提案した。
鈴木はためらったが、友人たちの熱意に押されるように後に続いた。
階段を登り、屋根裏へたどり着くと、そこにはひっそりとした空間が広がっていた。
中央には、朽ちかけた木の箱が置かれている。
田中は興味本位でその箱に手を伸ばし、「開けてみよう」と言った。

佐藤がその言葉に対抗するように「やめた方がいい」と警告したが、田中は無視して箱を開けた。
その瞬間、屋根裏から冷たい風が吹き抜け、蝋燭の火が一瞬で消え去った。
部屋は真っ暗になり、鈴木は心臓が高鳴り、恐怖を感じた。

田中が手の中に持っていた物は、古びた人形だった。
人形はどこか不気味に笑っているように見え、鈴木はその姿に不安感を覚えた。
「これ、捨てようよ」と言う鈴木に、田中は「この人形が放つものは何かあるかもしれない」と言って、捨てることを拒んだ。

しかし、その瞬間、屋根裏の隅から小さな声が聞こえてきた。
「返して…お願い…返して…」鈴木は恐怖にあふれ、後ずさりした。
佐藤も異常に気づき、「それはおかしい、早く外に出よう」と叫んだ。

三人は急いで階段を下り、廃屋を飛び出したが、その瞬間、全身に冷たい手が絡みつく感覚を覚えた。
放たれた怨念のようなものが、彼らを捉えようとしている。
しかし、鈴木は一瞬の判断で「その人形を戻そう!」と叫び、再び屋屋へ戻った。
二人は戸惑いながらも、鈴木の後を追った。

屋根裏にたどり着くと、鈴木は必死に人形を木の箱に戻した。
箱が閉じられた瞬間、屋根裏は静寂に包まれ、その場から漂っていた気配が消えていった。
外に出た三人は、安堵のため息をついた。

しかし、廃屋を後にする中、鈴木の頭の中には異様な感覚が残り続けていた。
「あの人形、何か大切にしていたものなんだ…」という思いが消えなかった。
それ以来、彼は放っておいた友人たちとの関係を見つめ直すことになり、限られた人生の中で何を持って生きていくべきかを再考することとなったのだった。
その経験を通して、彼はただ放り出すだけだった自分の感情や記憶を受け入れ、去った過去の大切さを感じるようになっていった。

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