「呪われたバの記憶」

ある静かな村に、老いた男、佐藤が住んでいた。
彼は退職後、一人で細々と暮らしており、趣味は田舎の風景を撮影することだった。
ある日、彼はいつものようにカメラを持って近くの山へ出かけた。
そこには村の人々が数十年前に埋もれた古い伝説があった。
その伝説には、「絶対に近づいてはいけない」とされる「呪われたバ」の存在があった。

バは、村の奥深い森の中にひっそりとたたずんでいる古い木製の小屋で、かつて人々が集まり祝宴を催した場所だった。
しかし、ある晩、このバで起きた悲劇が人々の記憶に刻まれ、以来誰もその場所に近づかなくなっていた。
佐藤は、恐れを抱きつつも、その好奇心を抑えきれず、バへと足を運ぶことに決めた。

日が沈み始めた頃、佐藤はついにその小屋の前に立った。
薄暗い森の奥で小屋は不気味に存在し、周囲には鳥の声もなく静まり返っていた。
彼はカメラを構え、小屋の入口を撮影した。
その瞬間、背後から誰かの視線を感じ、振り返ると、老いを重ねた女性が立っていた。
彼女は村の住人、田中という名で、かつて佐藤が若かりし頃から知っている人だった。

「こんなところに来てはいけない、佐藤さん」と彼女は警告する。
彼女の声には震えが混じり、どこか切羽詰まった雰囲気があった。
佐藤は彼女を軽く笑い飛ばし、「でも、昔のことを知りたいんだ。あの日、何が起きたのか」と言った。
その言葉に、田中の顔は真っ青になり、「それは執念だ。近づいてはいけない」と繰り返した。

しかし、佐藤の心はその好奇心に駆り立てられた。
彼は小屋の中へと足を踏み入れた。
中は暗く、木の床は軋む音を立て、彼の心臓は早鐘のように響いていた。
カメラのフラッシュが一瞬の光を放つと、目の前に朽ちたテーブルと椅子があった。
椅子には、まるで昔の人々が今にも帰ってくるかのように、埃をかぶった皿が並べられていた。

その時、突然背後のドアがバタンと閉まり、佐藤の心は冷え切った。
彼の目に映ったものは、赤い瞳を持つ何かだった。
それは、村の伝説に語られていた「報復の霊»であることに気づくのに長くはかからなかった。彼は過去の恨みを晴らすためにこの場所に封印された者たちの一人の存在を感じた。

「私たちを忘れないで」と耳元で低い声が響く。
恐怖に捉えられた佐藤は、動くことができなかった。
その瞬間、彼のカメラが光り、奇妙な映像が映し出された。
それは、村人たちの悲しむ姿、争い合う姿、そして怨霊となった彼らの姿が交錯する映像だった。

「私たちは復讐を求めている。あなたは私たちの希望なのだ」と、その声は続いた。
佐藤の心は揺らいだ。
彼はたくさんの人々を守るために自分の命が代償になってもいいと思った瞬間に、自身の過去の家族や友人たちへの感謝が心に浮かんだ。
佐藤は恐怖を押し殺し、静かに言った。
「私の命を捧げます。あなたたちの恨みを晴らしたい。」

その瞬間、小屋全体が揺れ、暗闇の中に無数の声が響き渡った。
佐藤は目を閉じ、亡霊たちの思いを受け入れた。
次に目を開けると、彼は静かな村の中に立っていた。
だが、周囲には誰もおらず、全てが異なって見えた。
彼は選ばれし者となり、村の歴史を描き直すための使命を背負っていた。

それ以来、この村には佐藤の姿が現れることはなかった。
彼の存在は、村人に伝わる「希望」となり、亡霊たちへの贖罪として語り継がれることとなった。
しかし、村の誰もが彼の運命を知る者はいなくなり、ただ静かな風が森を吹き抜けるだけだった。

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