ある寒い冬の夜、一人の老女が小さな村の外れの家に住んでいた。
彼女の名前は千恵。
村人たちは彼女を距離を置き、噂や恐れから避けていた。
千恵は若い頃、神隠しにあった人々や、不幸に見舞われた者たちと関わりがあったため、いつしか”呪いの老女”と言われるようになった。
村の人々は、彼女の家の近くには決して近づかないようにしていた。
そのため、千恵は孤独な生活を強いられていた。
唯一の楽しみは、窓からの景色を眺めながら、静かに編み物をすることだった。
冬の厳しい寒さが続くある晩、若い男の子が村を出て行った。
彼の名は健太。
健太は村に伝わる噂を信じず、逆に千恵の家を訪れることに決めた。
「呪いなんて、ただの迷信だ」と彼は自分に言い聞かせた。
好奇心と無邪気さで心が満たされ、千恵の家の前に立つ。
千恵がその様子を見ていると、何かが胸に迫り、言葉をかけることにした。
「近寄らない方がいい」と声をかけた。
「怖がってるんですか?噂なんか信じへんよ」と、健太は笑って答えた。
しかし、その瞬間、千恵の手から編みかけの毛糸が落ちてしまった。
そして、彼女の手は健太に向かって、まるで何かを引き寄せるように伸びていった。
健太は驚き、後退しようとしたが、充満した空気の中に何か異質なものを感じた。
千恵は彼に呪いをかけようとしているのか。
そんな考えが彼の頭を過ぎった。
その時、千恵は言った。
「あなたの運命を選ぶことになるわ。触れてみれば、真実が分かるかもしれない」と。
健太は興味を持ち、躊躇しながらも一歩進み、彼女の手に触れてしまった。
その瞬間、異世界に引き込まれる感覚に襲われ、目の前の光景が変わっていく。
周囲は奇妙な色合いを帯び、空の星々がより近く感じられた。
千恵は、彼の耳元で「この手が見つめ続ける限り、あなたは次の犠牲者になる」と呟いた。
突然、健太は急に強い恐怖感に襲われ、周りを見渡すと友人たちが次々と現れ、まるで彼を取り囲むように立っていた。
「助けてくれ!こんなところで終わりたくない!」と彼は叫ぶが、声は虚しく消え、周りの視界が霧に包まれていった。
彼の心には恐怖の影が満ち、焦りが生まれた。
「戻りたい、戻らなきゃいけない!」必死の思いで千恵の手を振り解こうとしたが、その手は素早く彼の腕に絡みつき、決して離れようとしない。
千恵の目はどこか冷たく光り、彼の運命を決める様子を見守るようだった。
その時、健太は強い意志で叫んだ。
「呪いなんてあるはずがない!私は帰る!」周囲の風景が一瞬静まり、千恵の手が少しだけ緩んだ。
その隙間をついて、健太は彼女の元から逃げ出す。
出口を見つけた健太は、村へと続く道を突き進んだ。
しかし彼の心には、千恵の冷静な目と、その手の感触が焼き付いて離れなかった。
村に戻ったとき、彼は周囲の人々に語った。
「あの老女には近づくな。見えない手が、あなたを捉えるかもしれない。」
その言葉が村中に広まり、千恵の名前は再び恐れの対象となった。
彼女が背負っていた呪いは、その手の中に存在し、永遠に誰かを探し続けるのだと、村人たちは恐れつつ噂を立て続けた。