ある地方の小さな村には、古くからの伝説があった。
村の外れに位置する「呪いの井戸」と呼ばれる場所である。
伝説によれば、その井戸には生きとし生けるものの命を奪う呪いがかけられており、村人たちは決して近づかないようにしていた。
しかし、時折話題になるのは、その井戸が強い絆を持つ者たちに対して特別な試練を与えると言われていることだった。
高校生の佐藤健二は、村の近くに住む従兄の太郎と非常に仲が良かった。
二人はいつも一緒に遊び、勉強を教え合う大の仲良しだった。
そんなある日の午後、二人は森の中を探検することに決めた。
楽しい時間が過ぎる中、偶然にも「呪いの井戸」を見つけてしまった。
その井戸は朽ちかけ、周囲には枯れた木々が立ち並んでいた。
井戸を見上げると、不気味な雰囲気が漂っていたが、健二は好奇心に駆られ、その中を覗き込んでみることにした。
「本当に呪われているのかな?」と軽い気持ちで言った。
ところが、太郎は不安そうな顔をして「やめた方がいいよ、伝説は本当かもしれない」と忠告した。
しかし、健二の好奇心は止まらず、井戸の中へと手を伸ばした。
その瞬間、冷たい風が彼の頬をなで、耳元で「来てほしい…」という低い声が響いた。
その声に驚いた健二は後ずさり、思わず井戸の淵に足を踏み外した。
彼は井戸に落ちそうになったが、太郎が素早く手を伸ばし彼を引き上げた。
命の危機を逃れた健二は、命の重さを強く感じた。
そして、彼はその瞬間に太郎との絆の深さにも気づいたのだ。
数日後、健二は変な夢に悩まされるようになった。
夢の中ではあの不気味な井戸が彼を呼び続けていた。
彼は疲れ果て、夢の内容を太郎に話すことにした。
すると、太郎も同じような夢を見ていることがわかった。
二人はその呪いに魅了され、ますます井戸の存在が気になり始めていった。
「もう一度、井戸を見に行こう」と提案をしたのは太郎だった。
健二は驚いたが、結局二人は再び「呪いの井戸」を訪れることにした。
彼らは今度こそその呪いの正体を解明したいという強い思いを抱いていた。
井戸の前に立ち、二人は互いに手を握り合った。
これ以上、絆を割いてしまう恐れがあるにもかかわらず、彼らは井戸の中を覗き込んだ。
すると、何かが井戸の底から浮かび上がってきた。
それは無数の顔が、助けを求めるようにこちらを見上げていた。
突然、井戸の中から強い引力が生まれ、二人はそれに引き寄せられるように感じた。
太郎は必死に健二の手を握りしめたが、力が次第に弱まっていく。
何かが二人の絆を引き裂こうとしていた。
健二は恐怖に震えながら「太郎、俺を助けてくれ!」と叫んだ。
しかし太郎も井戸の力に引き込まれつつあり、健二を助ける余裕がなくなっていた。
「もう大丈夫だ、俺たちの絆は切れない!」と言い重ねようとしたその時、健二が体をこじ開けるようにして姿勢を変えた。
力いっぱい手を引き返そうとしたが、太郎はその瞬間に井戸の力に負け、手を離してしまった。
健二は絶望的な思いに包まれた。
太郎を失ったその瞬間、彼は井戸からこぼれるような笑い声を聞いた。
健二は一時的に自嘲の苦しみに沈んだが、すぐに冷静さを取り戻した。
彼は井戸の呪いが奪った命と、絆の重さを再認識した。
誰もが手放してはいけないものがあるのだ。
心の中で太郎の声が耳に響いた。
「絶対に忘れないから、いつかまた会おう」と。
その後、健二は村を離れることを決意し、「呪いの井戸」の存在を消すために学びを続けた。
太郎との絆を糧に、命の尊さを理解しながら、彼は強く生きていくと誓った。