「呪いのキャンバス」

舞台は、郊外の古びた廃校。
かつて賑わいを見せていたその校舎は、数年前に閉鎖され、今では青い空の下で寂しく放置されていた。
地域の子どもたちには「呪われた学校」として勇気ある者だけが足を踏み入れる場所となっていた。

主人公の健太は、高校3年生。
彼は友人と共に肝試しを企画し、この廃校を訪れることに決めた。
好奇心旺盛な健太は「何も起こるはずがない」と自分を鼓舞し、友人たちにもその気持ちを伝えていた。

廃校に着くと、木々に囲まれた朽ち果てた校舎が目の前に立ちはだかった。
扉は開いており、彼らはそっと中に足を踏み入れた。
薄暗い廊下を進むと、教室の前で何かの気配を感じた。
辺りが静まり返り、冷たい空気が彼らの背筋を凍らせた。

そのとき、突然背後から「助けて…」というかすかな声が聞こえた。
振り向くと、だれもいない。
しかし、声は続く。
「助けて…早く、早く…」。
恐れを抱えながらも、健太は声のする方へ進むことにした。

彼らが向かったのは、かつて美術室だった場所。
床には色とりどりの絵の具が乾いており、古びたキャンバスが散乱していた。
声はその中の一つから発せられているようだった。
キャンバスの横に立つと、今度は耳元でささやくような声音がした。
「お前も私と同じ運命を辿るのか?」

健太は心臓がバクバクし、震える手を伸ばしてキャンバスを触れた時、驚くべき現象が起こった。
全ての色が描かれた絵がぎゅっと収束し、見る見るうちに生きた姿を現し始めた。
その絵から浮かび上がったのは、彼の見知らぬ少女だった。
彼女の目は悲しみを湛え、無言のままこちらを見つめている。

少女は静かに口を開き、「私の呪いを解いて」と訴えかけてきた。
その瞬間、健太の頭に過去の記憶が浮かび上がった。
数年前、ここに通っていた女子生徒が行方不明になり、その後、死体が発見されたという噂を思い出した。
彼の中で何かが響き合い、彼女がその生徒ではないかと思った。

「いったい、何をすればいいんだ」と、健太は恐怖の中で呟いた。
少女は微かに首を振り、「代わりに私の苦しみを知って、私を忘れないで」と告げた。
その言葉に健太は身震いし、彼女を助けることはできないのかと絶望感が押し寄せる。
現実の中で無力感を感じながら、彼の心は揺れ動く。

「どうすれば私の助けになる?」と健太は尋ねた。
すると少女は、彼に一枚の紙を手渡した。
その瞬間、校舎全体が急に薄暗くなり、影が広がった。
健太はその紙をしっかり握りしめ、他の友人たちの元へ急いだ。

「早くここから出よう!」健太は焦りながら叫ぶが、友人たちは恐怖に凍りついていた。
彼の言葉は彼らには届かない。
「助けて、助けて」と呪文のように繰り返す声が、校舎内に響き渡る。

その時、急に全ての色が彼の視界を奪った。
健太は他の友人たちがヒステリックになっていくのを感じながら、その情景を見つめ続けていた。
恐怖に支配され、思わず手にした紙に目を凝らすと、そこには古い呪文が書かれていた。
彼は運命を感じ、呪文を唱えることに決めた。

「呪いを解き放て、悪しき影よ!」その瞬間、強烈な風が巻き起こり、校舎が震え始めた。
彼の言葉が響き渡る中、少女は微笑んで消えていった。
彼女の姿は空の中で一瞬、輝きを放った後、完全に消えた。

その後、健太たちは無事に廃校を後にした。
夜の闇が静まりかける頃、彼は手にした紙を見つめ、「記憶を忘れない」と心に誓った。
彼は知っていた、この呪いは今後もこの場所に留まり続けることを。
そして彼は、少女の願いを胸に秘め、彼女を忘れないことを心に誓った。
それから数年後、廃校は完全に取り壊されることになったが、人々の間で語り継がれる伝説となり、異変を秘めた場所として記憶に残ることとなった。

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