「名もなく、永遠に」

原っぱの真ん中に、一軒の古びた小屋があった。
誰も住んでいないように見えたが、地元の人々はこの場所を避けていた。
「あの小屋には、不思議なことが起こる」との噂が広まっていたためだ。

ある日、大学生の健太は友人たちと共に、肝試しをすることになった。
原っぱは静まり返り、夕暮れの光が徐々に消えかける中、彼らは小屋へ向かった。
少しの緊張があったが、彼らは冒険心に胸を高鳴らせていた。

小屋にたどり着くと、扉は驚くほど簡単に開いた。
中は埃だらけで、何年も使われていないようだったが、壁には古い落書きや、目に見えない存在に対する恐れを表したような言葉が刻まれていた。
「出ていってくれ」というメッセージが、まるで彼らを警告するかのように感じられた。

健太は、「こんなもの、ただの噂さ」と笑いながら、友人たちに自分の勇気を示そうと小屋の中を歩き回った。
すると、突然、背後から「助けて…」という声が聞こえた。
彼は振り返ったが、誰もいない。
友人たちも彼の様子を見て驚き、恐怖心が一気に広がった。
それでも健太は気のせいだと言い聞かせて、再び小屋の隅へと向かった。

その時、健太はある奇妙な現象に気付いた。
部屋の奥で、何かがかすかに光を放っている。
彼がその光に近づくと、突然、周囲の空気が変わった。
彼の目の前に、薄い女性の姿が現れた。
その女性、名を美咲と名乗った彼女は、永遠の時を彷徨う者であった。

美咲は彼に語りかけた。
「ここから離れたくても離れられない…永遠にこの場所に囚われているの」と。
その言葉には、深い悲しみが宿っていた。
彼女の姿は次第に薄れていき、まるで霧の中に吸い込まれていくようだった。

健太は彼女を救う手立てがないか考えた。
「どうしてここにいるんだ?何があったんだ?」と問いかけると、美咲は「私の運命が決まった時、私を忘れないでと願ったの…。でも、誰も私の名前を思い出すことはなかった」と答えた。

彼はその言葉に心を打たれ、何とか彼女を助けたいと思った。
その瞬間、彼の思考が「新しい物語を作らなければ」と導いた。
彼は美咲の名を録音し、彼女の存在を記録することを決めた。
「忘れない、君のことをしっかりと記録するよ」と約束した。

美咲は微笑み、彼女の存在感が一瞬強くなった。
「新しい物語が生まれるのですね。もし私が伝えられるなら、私の存在も永遠ではなくなる…かもしれません」と言った。
しかし、彼女の姿は次第に消えかけていた。

友人たちが戻ってきた時、健太は自らの行動を疑問に思った。
「もしかしたら、彼女を記録することが真実を知ることに繋がるかもしれない」と感じていた。
彼は小屋を後にし、その後何度も記録作業を続けた。
美咲の話を町の人々に広めるための資料を作り、彼女の物語を伝えたのだ。

数週間後、健太の手元には彼女の存在を証明する数々の資料が揃っていた。
そして、ついに彼は町の図書館で彼女の名を見つけ、長い間待ち望んでいた存在を世の中に広めることができた。

美咲の名は再び人々の記憶に刻まれ、彼女の魂も解放された。
その後、健太は時折原っぱを訪れ、彼女のことを思い出しながらその場に立ちつくした。
彼の中に美咲の存在が生き続ける限り、彼女の話は決して消えることはなかった。

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