ある日、私は高校生の頃に通った小さな人里離れた村を訪れることになった。
この村には、私が一番恐れていた噂が根付いていた。
それは、「の」を持つ者は、己の過去と向き合うことになるというものだった。
私自身、「の」を持つのはただの名前だが、その名前が現実に姿を持ち、私に何か影響を及ぼすのではないかとずっと感じていた。
村に入ると、薄暗い道の両側には古びた家々が並び、まるで時が止まったかのように静まり返っていた。
私は不安を抱えながらも、好奇心が勝り、探検を始めた。
道を進むにつれ、私は次第にその噂の真実を確かめたくなっていた。
「の」にまつわる恐ろしい体験が何かしらの形で私を待っているのだと考えたからだ。
村の中心には、朽ちかけた祠があり、そこが私の目的地だった。
噂によると、その祠には「生」の力を宿した何かがいるという。
私は祠の前に立ち、周囲を見渡した。
風が吹き、木々がざわめき、まるで何者かが私を呼んでいるような感覚に襲われた。
心臓が高鳴る。
私は深呼吸をして、祠に近づくことにした。
祠の扉を開けると、そこは暗闇に包まれていた。
足元には古い神饌が散らばり、かすかに香ばしい匂いが漂ってきた。
その瞬間、背後から「わ」と小さな声が聞こえた。
驚いて振り向くと、誰もいない。
しかし、心の奥ではなんとなく、私の「の」が自分自身に結びついている気配を感じた。
急に、祠の中がかすかに光り始めた。
目を凝らすと、そこには私の顔をした影が浮かんでいた。
その影は、昔の私が望んでいた姿、過去の私そのものだった。
自分自身に驚きと恐怖を感じながらも、影は笑顔で私を見つめていた。
「あなたは私なの?」と呟いた瞬間、影が語りかけてきた。
「そう、私はあなたの過去の一部。あなたが逃げ続けた感情のかけらです。」
その瞬間、身の毛もよだつ感覚に包まれた。
私は自分を直視せずにはいられなかった。
数多くの失敗、恥ずかしい思い出、他人との比較…それらすべてが今、目の前に立っている。
この影と向き合うことで、逃げられない己の過去を知ることになる。
「でも、あなたは私を否定しているの?」影は問いかける。
私は何も言えなかった。
ただ、震える手でポケットの中身を確認する。
そこには、過去に私が大切にしていた思い出が詰まった品があった。
それを取り出し、影に見せると、影が悲しそうに目を潤ませた。
「私もあの時のあなたの一部。恥ずかしい思い出も、無駄じゃない。私たちは一緒に生きていくことができるはず。」影の声が響き、私は無意識に頷いていた。
そして、私はその瞬間、過去の自分を受け入れようと決意した。
「あなたが私の一部なのだから、私もあなたを否定するわけにはいかない。」
ようやく影から目を離し、振り返ったとき、祠の外は静まり返っていた。
何かが変わったような気がした。
身体中に力がみなぎり、自分自身に対する見方が変わったことを感じていた。
村を去るとき、私は暗い思い出を抱き続けるのではなく、それを糧として未来に向かって進もうと思った。
無駄に恐れる必要はない、自己を受け入れることで新たな道が拓けるのだった。
私の「の」は、過去の一部として、今の私と共存していくのだと感じた。
だから、私はもう何も恐れない。
過去も今も自分の一部だから、立ち止まらず、進むのみなのだ。