「又の木の秘密」

ある晴れた日の午後、若い女の子の中村絵里は、近所の公園に遊びに行くことに決めました。
その公園には、誰もが知っている「又の木」と呼ばれる大きな木がありました。
地元では、この木には特別な力が宿っていると言われており、昔から子供たちの遊び場として親しまれていました。

園の中央には大きなベンチがあり、絵里はそのベンチに座りながら、友達の豊と一緒に遊ぶことにしました。
絵里と豊は、子供の頃からこの場所で遊んできたため、この公園が持つ不思議な魅力を知っていました。
しかし、その日に限って、何かが違っていました。

絵里がふと視線を向けると、又の木の下に立つ影が目に入りました。
小さな男の子が、何やら一生懸命に木の根元を掘っているのです。
豊もそれに気づき、二人は男の子のところへ近づくことにしました。

「ねえ、何してるの?」絵里が尋ねると、男の子は一瞬驚いたように顔を上げました。
その表情は、どこか不気味でした。
彼の目はどこか空虚で、まるでそこにいるのは本物の人間ではないかのようでした。

「お母さんが、ここに宝物があるって言ってたから、探してるんだ。」子供はそう言いましたが、その言葉にはなぜか重苦しさを感じました。
二人は、男の子の無表情な瞳に惹かれるように引き寄せられました。

「本当に宝物があるの?」豊が尋ねると、男の子はニヤリと笑いました。
その瞬間、風が強く吹き、園全体が不気味な雰囲気に包まれました。
周囲の遊具や木々がざわめく中、男の子が再び言いました。
「違う、これは別のものだ。」

その言葉に耳を傾けてしまった瞬間、絵里の心に恐怖が走りました。
中村絵里は知らず知らずのうちに、男の子の目に引き込まれていく感覚を味わっていました。
「帰りたい、帰りたい。」心の中で呟きましたが、体は動きませんでした。

豊が急に「もう帰ろう!」と叫び、絵里の手を引いてその場から逃げ出そうとしました。
しかし、男の子が再び声をかけました。
「逃げても無駄だよ。この園は私の場所だから。」その声はどこか遠くから響くようで、絵里の耳にこだましました。

公園を出た後も、どうしてもその不気味な気配が消えず、二人は無言で帰路につきました。
絵里は、又の木で見た出来事が夢だったのか現実だったのか分からないままでした。
翌日、彼女は再び公園に行く勇気を持っていましたが、入り口から中に入ることができませんでした。

数日後、公園のニュースが報じられました。
又の木の下で、行方不明になった子供の遺体が見つかったというのです。
その名前は、「又」という名の男の子でした。
彼は、周囲の誰もが知らない存在であり、絵里が出会ったのは、彼が公園に留まり続けるための不気味な現象だったのかもしれません。

それ以来、絵里と豊は、公園に近づくことができなくなりました。
あの又の木の下には、まだ「別のもの」が隠れているのではないかと思うと、背筋が凍りそうでした。
その日は、決して忘れられない記憶となり、彼女の心に陰を落としました。

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