原の山奥、秋色が深まる頃、村人たちの間で語られる恐ろしい話があった。
世代を超えて語り継がれるこの話の中心には、年という名の青年がいる。
彼は真面目で穏やかな性格だったが、ある出来事を機に村を去ることとなった。
年は、日々の仕事を終えた後、家族からの忠告を無視して原の森に遊びに行った。
村では「原の森には近寄るな」と言われていたが、彼はそれが単なる迷信だと思っていた。
しかし、彼が森に足を踏み入れた瞬間、自然の荘厳な美しさに魅了された。
しかし、この美しい景色の裏に潜むものを、年は知る由もなかった。
森の奥深くに進むに連れ、次第に不気味な気配を感じるようになった。
風が突然止まり、周囲が静まり返る。
まるで時間が止まってしまったかのような感覚に包まれると、彼の心にも不安の影が落ちた。
しかし探検心に負けて、年はさらに進むことにした。
その時、彼の目の前に現れたのは、奇妙な光を放つ一対の目だった。
それは、醜く崩れた顔を持つ異形の存在であった。
年は恐怖で動けなくなり、ただその場に立ち尽くす。
異形は、彼をじっと見つめていた。
その目は、生気を失い、まるで彼の心を暴こうとしているかのようだった。
「私を…助けて…」という声が、その異形の口から漏れた。
それはかつて、年が尊敬していた村の長老、松永の声だった。
松永は、原の森に魅入られた結果、姿を変えられてしまったという噂があった。
年は混乱しながらも、目の前の異形が彼の知っている松永だと確信した。
「なぜここに来た、年?」異形の声は鋭く響き、年は身震いした。
「この森は、私たちの魂を捕らえる場所だ。何も知らずに踏み入れてしまった者は、決して帰れない…」その言葉が彼の耳に届くと、恐怖が全身を駆け巡った。
「私を見捨てるのか!この森には、私をこの姿に変えた者がいる…あの者を見つけ、私を解き放つことができれば、私は元の姿に戻れるのだ。」松永のこの言葉は、年の胸に火を灯した。
彼は、勇気を振り絞って異形を見つめた。
「わかった、松永さん!必ずやあなたを助けてみせる!」年は言った。
しかし、彼の決心は、森の恐ろしい力に直面することで試されることになる。
年は異形の指し示す方向へ足を進め、何かが崩れ落ちるような不安を感じながら、心を鬼にして森の奥へ進んだ。
しばらく進むと、年は不気味な光景に出くわした。
それは、木々の間に落ちている人々の無残な姿だった。
彼らは、森の魔物に襲われた者たちであろう。
年は、その光景に目を覆いたくなったが、松永のために一歩踏み出し続けた。
原の森の更なる奥に進むと、血のような赤い光が彼を迎えた。
そこには、狂ったような笑みを浮かべた何者かが立っていた。
その者は、村に伝わる霊的存在であり、原の森を支配する者だった。
年は恐怖に包まれるが、目の前の者に立ち向かわなくてはならないと感じた。
「お前は、何が欲しい?」年は声を震わせながら尋ねる。
「崩れた現実、暴れた魂を差し出せ。そうすれば、松永を返してやろう」とその者は冷たく答えた。
年は瞬時に決断した。
村のために、松永のために、彼が代償を支払うことを決意した。
しかし、何が崩れ、何が暴れるか、それは彼自身が負うべき宿命だった。
年は、祭りの夜に人々が楽しんでいる姿を思い出し、彼の心に渦巻く後悔と苦しみが募る。
彼が代償を支払うことで、村の平和が戻ることを願った。
すると、周囲が一瞬にして崩れ落ち、年は暗闇に引き込まれていった。
この夜、彼は森の他の者たちと共にその存在を呪うことになった。
原の森は永遠に恐怖の象徴として、彼の物語と共に語り継がれることとなった。