「別の世界の約束」

ある晩、田舎の細い道を祖母の忠告に従い歩くことにした。
道は人通りが少なく、静けさが漂っていた。
青白い月明かりが木々の間から漏れ、周囲を薄暗く照らしている。
私は祖母の家に向かう途中で、毎回注意されていたことを思い出した。
「この道は、決して一人で通ってはいけない」と。

祖母は何かを知っているようだったが、若い私はそれを気にせず、友人と遊びすぎて帰る途中、先に歩いていたのだ。
月の明かりとともに、恥ずかしさや若さゆえの優越感が私を包んでいた。
しかし、その夜の静けさの中で、不穏な空気が漂い始める。
背筋が寒くなり、道の両側にある木々の影がまるで自分を見つめているかのように感じた。

歩いていくうちに、視界の端に何かが動くのを見つけた。
振り返ると、そこには祖母の姿があった。
彼女は若かりし頃の姿で、私に向かって微笑んでいる。
しかし、何かが違った。
目は虚ろで、まるでその場にとどまる意味を失ったように見えた。
祖母はゆっくりと私の方に歩み寄り、「ここには私の友達がいるの」と言った。

その瞬間、心にもない恐怖が私を襲った。
祖母が言った「友達」が何を指しているのか、私は理解できなかった。
彼女は「大丈夫、あなたも会ってみたらいい」と言いながら、木々の影へと誘う。
私は好奇心と恐怖から一歩も動けず、ただ祖母の動きを見つめるしかなかった。

そして、私は決断を下した。
好きだった祖母を信じ、彼女について行こうとした。
それでも、足はまるで重りがついているかのように進まなかった。
「どうして、私を呼んだの?」と震える声で尋ねると、祖母は「別の世界に行きたかったの。でも、一人じゃ怖いから、あなたも連れて行こうと思った」と答えた。

その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
祖母は私を「連れて行く」というのだ。
その時、道の両側で風が吹き、木の葉がざわめく音が耳に入った。
そして、影がますます深く、たくさんの顔が浮かび上がる。
彼らは祖母と同じ空気を持っているようで、誰もが微笑みながら私を見つめていた。
だがその微笑みには、温かさも優しさも感じられなかった。

恐怖が心臓を締め付けるようにあふれ出して、私は「帰りたい」と叫んだ。
祖母の顔が一瞬、驚きに変わり、次の瞬間には悲しげな表情に戻った。
「あなたに会いたくて、ずっと待っていたのに…」彼女の言葉に傾く心が揺らいだが、何か大切なものが幻のように遠のいていくのを感じた。

急いでその場を離れようとしたが、足が地面に張り付いたように動かなかった。
まるで誰かが背後に手を伸ばして、私を捕まえようとしているかのようだった。
私は恐怖から逃れたかったが、祖母だけはその場から動こうとはしなかった。
彼女の目には恐ろしい光が宿り、笑顔が冷たく変わる。

「帰れないわ、私たちは別の世界の住人だから」

その言葉が私を捉え、やがて私は気を失いそうになった。
意識が薄れていく中、祖母の声が静かに耳に響いていく。
「あなたも、私たちの仲間になるのよ…」その瞬間、明るい光が消え、全てが暗闇に包まれた。

そして、目が覚めた時には、道は静まり返っていた。
祖母の姿も、不気味な影も消え失せていた。
呟くように「帰ろう」と呟くと、再びその夜道を一人で帰ることにした。
心の奥には、祖母の言葉と、別の世界での残響が未だに響いていた。
何かが変わったような気がし、自分が大切なものを失ったことを実感しながら、ただただ歩き続けた。

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