深い冬の寒さが街を包む、北海道の小さな村。
雪が降りしきる中、村のはずれにある古びた神社に、佐藤美咲は足を運んでいた。
彼女は幼い頃からこの神社に親しみを感じており、特に冬の冷え切った夜に訪れると、自らの心の声や思い出を整理する場所として利用していた。
今夜も美咲は、神社が一面の雪に覆われた静寂の中で、凍えた手で小さなろうそくの火を灯した。
この神社は、村の人々の信仰の場でもあり、特に亡くなった者たちの魂を祀る場所でもあった。
今は何も感じないように思えたが、過去の記憶が美咲の中で鮮やかに蘇る。
彼女の祖母は、ここで多くの祈りを捧げ、祖先を想って涙を流していた。
しばらく静かにしていると、ふと寒気が背筋を走った。
誰かが側にいるような気配が、体にひんやりとした触感をもたらした。
美咲はその瞬間、心の中に不安が広がった。
周囲に誰もいないはずなのに、彼女にはどうしても誰かが見えないところで彼女を見守っている感覚があった。
「寒い…」彼女はつぶやく。
「誰かいるの?」美咲の声が冷たい風に吸い込まれていく。
やがて彼女は、神社の中央に立つお社の方へ足を運び、その前にひざまずいた。
そこには、祖母の魂がいつでも彼女を見守っているはずだと思った。
そして、心を込めて祖母への思いを語った。
「おばあちゃん、私、今でもあなたを想ってる。」その言葉が静寂の中に響くと、不意に、彼女の背後から「美咲…」という低い声が聞こえた。
驚いて振り返るが、そこには誰もいなかった。
ただ冷たい風が一際強く吹き、一瞬、彼女は周囲が真っ白になっていくのを感じた。
心を強く持ち、再びお社の前に戻ると、今度は目の前に薄い人影が見えた。
その影は、確かに祖母の姿に似ていた。
顔はぼんやりとしているが、その優しい笑顔が彼女には見えた。
美咲は恐怖とともに、祖母の存在に惹かれ、自然と涙がこぼれた。
「おばあちゃん…本当にあなた?」美咲は声を震わせながら尋ねた。
影は頷くように見えたが、冷気はますます強まり、一層身体を冷やした。
影が話しかけてくることはないが、その存在は美咲に強烈な印象を与えた。
不意に、周囲が静まりかえり、美咲の心が静かになっていく。
彼女は感じ取った。
祖母の魂が、今もこの神社を守り、生きている人々のために存在し続けているのだと。
祖母は冷たい冬の空気の中で、決して忘れられることのない魂を心に宿していた。
彼女は決意した。
自分もまた、祖母のように愛する人々を守り続けたいと。
しかし、その瞬間、影が一瞬で消えてしまった。
寒さが一層増していくと、美咲は背筋を伸ばして、もう一度ろうそくを灯した。
その火が揺らめく中で、彼女は心の中に祖母の温もりを感じた。
「負けない、私も守るから!」美咲は叫び、その言葉が冷たい空気に響いた。
その瞬間、温かい風が吹き抜け、彼女は祖母の優しさを感じることができた。
彼女は、この神社が魂たちの帰り場所であることを理解し、じっとその場所で目を閉じて祈りを捧げ続けるのだった。
冬の冷気や魂の気配は変わらずとも、美咲の心に温かさが満ちていくのを感じた。
心の中で祖母がいつまでもそばにいることを信じ、彼女は寒さの中でも強く生き続けることを決意した。