洞窟の奥深く、少しずつ冷気が漂う場所があった。
そこは村人たちから忌み嫌われ、誰も近づかない場所だった。
特に夜の訪れと共に、その寒さは一層増し、まるで何かがその場所に潜んでいるかのようだった。
少年、健太はその噂を耳にしながらも、友達と一緒に遊びに行くことを決めた。
好奇心が彼を押し進め、まるで洞窟に潜む何かを見つけたくてたまらなかったのだ。
夕暮れ時、友達の智と翔も一緒に向かった。
彼らは洞窟の入り口に立ち、暗がりの奥へと進んで行く。
穴に入ると、外の温もりとは打って変わって、凍えるような冷気が二人を包み込んだ。
周りはひんやりとした空気に満たされ、自分たちの息が白く見えるほどだった。
洞窟の壁には水滴が垂れており、時折耳に入る滴音が静寂を切り裂くように響く。
「なんだか、ここ寒いね」と智が言った。
健太は同意しながらも、心の奥底でこの状況を楽しんでいる自分がいた。
進むにつれて、洞窟の内部はどんどん暗くなり、周りの様子が見えなくなっていった。
健太は懐中電灯の明かりを頼りに足元を見つめ、注意深く進む。
ふと、彼は何か違和感を覚えた。
周りの空気が重く、何かが視線を向けているような感覚を抱く。
「ねぇ、みんなも感じない? 何かいるみたいな…」健太が声に出すと、智も頷いた。
「なんか寒くなってきたよ。」その瞬間、周囲の温度が一層低くなり、まるで誰かがその場にいるかのような気配が漂った。
翔は恐怖から、もう帰ろうと提案したが、健太と智はそれに反対した。
「まだ奥に行こうよ。何か面白いものが見つかるかも。」
彼らは更に奥へ進むことにした。
しかし、周囲の寒気はますます強まり、まるで誰かが彼らを引き留めているように感じた。
洞窟の奥深く、さらに進んでいくと、やがて何かの気配が明らかだった。
空気が一瞬凍りつき、急に静寂が訪れた。
そしてその瞬間、彼らの目の前に霧が立ちこめ、不気味な影が浮かび上がった。
「な、何だ…!」翔の声が震えた。
健太も恐怖を抱きながら、目の前の影を見つめる。
そこには、白い着物を纏った少女の姿があった。
彼女は微笑みを浮かべていたが、その表情はどこか冷たく、健太たちの心に恐れを抱かせるものだった。
「なぜ、ここに来たの?」少女の声は、彼らの心に直接響くように届いた。
健太は恐怖から言葉が出ず、ただ彼女を見つめることしかできなかった。
智は震える声で答えようとしたが、思うように言葉が出なかった。
「私を見つけたのね。」少女の声は、何かを思い出させるような響きを持っていた。
その瞬間、健太は昨年の冬、村で起きた事故を思い出した。
少女の名は「美少女」で、村の子供たちにとっての悲しい伝説だった。
彼女は事故で命を落とし、その魂が今もこの洞窟に留まっているという噂があった。
「私、ここから出られないの…。」少女の声が悲しみに満ちていることを健太は感じた。
同時に、彼女の存在が彼らを寒さから解き放つ力を持っているようにも思えてきた。
彼は心の中で彼女を理解するようになり、何か彼女を助けてあげたくなった。
「どうすれば、あなたを解放できるの?」健太は勇気を振り絞って尋ねた。
少女は微笑みを浮かべた。
「私の気持ちを理解してくれるなら、私を思い出すことで私は自由になれるわ。あなたたちの心の中で、私は生き続けることができるから。」
その言葉を聞いた瞬間、健太は自分の心の中に温もりを感じた。
彼女が求めているのは、単なる解放ではなく、思い出として生き続けることだと理解したのだ。
「君を忘れない。絶対に。」健太は心の中で誓った。
その瞬間、洞窟の温度が少しずつ緩み、冷たかった空気が和らいでいった。
少女の姿が薄れていく中、彼女は微笑んでいた。
健太は自らの心に彼女の姿を刻み、恐れから自由になることを感じた。
洞窟を後にする際、彼の心には彼女の温もりが残っていた。
もう過去を恐れることも、彼女を忘れることもない。
心の中で、彼女はずっと生き続けるのだから。