「冷たい窓辺の囁き」

ある小さな村に、乗田という古びた小学校があった。
数年前、児童たちが通った後に廃校となり、そのまま忘れ去られた。
その校舎は、近隣の住民たちから「亡者がうろつく場所」として恐れられていた。
特に、夏の暑い日になると、冷たい風が校舎の窓から吹き込むのを感じた者は、決してその話を口にすることはなかった。

そんなある日のこと、村に住む青年・佐藤亮太は、友人たちと肝試しをすることに決めた。
彼の仲間には、小学生の頃からの親友である田中健二と、好奇心旺盛な女子・鈴木恵美がいた。
彼らは噂を耳にした古い学校の裏にある、「在る」と言われる異空間を探検するためにその場所へ向かうことにした。

月明かりの下、彼らは乗田小学校の中へ踏み入れた。
古びた扉を開けると、隣の教室からはささやくような声が聞こえてきた。
それは、何かに呼ばれているような不気味な声だった。
亮太は、一瞬立ち止まるが、仲間の手前意気込もうと「どんな生徒がいたんだろうな?」と軽口を叩いた。

三人が廊下に足を進めると、ふとその窓が大きく開き、冷たい風が吹き込んだ。
恵美は鳥肌が立ち、急にその場から飛び出した。
「何か、いやな感じがする!」と彼女は叫んだ。
その瞬間、教室の奥から何かが飛び出す音がした。
彼らは恐怖に駆られ、急いでその部屋を後にした。

次に目指したのは、校舎の最後の教室だった。
中に入ると、薄暗く埃まみれの黒板がそのまま残っていた。
不気味な静けさに包まれ、友人たちも言葉を失った。
亮太は気を取り直し、窓を開け、涼しい風を入れようとした。
しかし、その時、突然黒板が激しく揺れた。
驚いた彼らは、無意識に後ずさりした。

その瞬間、教室の奥から低い声が耳に響いた。
「いけない…いけない…」それは間違いなく一人の子供の声だった。
亮太は恐怖に包まれながらも、何かに引き寄せられるように声の方へと進んでいった。
すると、黒板の前にぬいぐるみのような「牲」が現れた。
それは、古びたクマのぬいぐるみだったが、どこか目つきが異様に感じた。

友人たちも不安が募り、彼を引き留めようとするが、亮太は目が離せずにいた。
クマのぬいぐるみは、まるでこちらを見つめているようだった。
「私…遊びたい…」その言葉は、まるで重たい空気の中に鳴り響いた。

その瞬間、亮太の先に広がる異空間が現れた。
周りにはかつての生徒たちが輪になり、無表情で彼を見つめていた。
彼らの服装は、まるで昭和の時代のものであり、動かされる様子もなく、ただひたすら彼を見ていた。
亮太は恐怖で体が震え、ただその場に立ち尽くした。

「あの子たちを助けて!」という恵美の叫びが響いたが、その言葉も虚しく響き、亮太はその場から抜け出そうとした。
しかし、次の瞬間、彼の背に冷たい手が伸びた。
それは、うしろから触れる何かの感覚。
彼は振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。

「やだ、帰ってこないで…」彼女は微笑みながらも、空虚な目をしていた。
亮太は恐怖のあまり絶叫し、同時に仲間たちも彼を引っ張って、外に逃げることを決心した。
しかし、校舎の外に出ると、まるで何もなかったかのように周囲の様子は元通りだった。

彼らは振り返りながらも、学校を離れ、その記憶を忘れ去るように踏み出した。
彼らの胸には深い不安が残る。
しかし、何か思い出そうとすると、時折耳元で「いけない…」という声がまた鳴り響くのだった。
それは彼らの心の中で、いつまでも鳴り響き続けていた。

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