寒い冬の夜、私たちは山奥の古びた小屋に篭っていた。
キッチンには囲炉裏があり、その周りには数人の友人たちが温まりながら、暖かいコーヒーを飲んでいた。
話題は自然と、近くの村で語り継がれる怪談へと移っていった。
その話は、かつてこの山で行方不明になった少女の伝説である。
彼女は村でとても愛されていたが、ある日、山に遊びに行ったまま、二度と戻らなかった。
村人たちは彼女を探したが、どこにも見つからなかった。
半年後、彼女の遺体は山の奥深くで発見されたが、驚くことに、何も異常はなかったという。
村の人々は、この悲劇を受けて少女を弔い、彼女の精神が安らかになることを願った。
しかし、その後、人々は何かがおかしいことに気づき始めた。
少女の姿を見た者が次々と行方不明になってしまったのだ。
私たちは興味本位で、その話に引き込まれていった。
「こんなの信じるわけないじゃん」と誰かが言うと、全員が笑い転げた。
しかし、その時、不気味に冷えた空気が小屋の中を包み込み、私たちの笑顔は次第に消えていった。
周囲の景色が次第に暗くなり、まるで何かが近づいてきているような気配を感じた。
その夜、篭の中で、何もない静寂の中にいるのが次第に不安になり、私たちはふざけた話をし続けることで恐怖を紛らわせようとしていた。
しかし、笑い声はすぐに途切れ、静かになった。
それと同時に、篭の外からかすかな声が聞こえてきた。
「助けて……」
私たちは驚いて顔を見合わせた。
誰かが声をかけている。
もしかすると、村の人々が私たちを探しに来てくれたのだろうか?もう一度、その声が響く。
「助けて……私を忘れないで……」
私たちは、その声の主を探すために篭を出ることに決めた。
外に出ると、何とも言えない不気味さが空気を支配していた。
月明かりの下で、誰もいないはずの山道が私たちを誘うように延びていた。
この声の持ち主は、まさにあの少女に違いない。
私たちは恐怖を感じながらも、逆らえない誘惑に導かれるように進んで行った。
山を登るにつれ、声はどんどん大きくなり、私は思わず立ち止まった。
「やめよう!戻ろう!」と叫んだが、仲間たちは動かなかった。
「行こう、何があっても見に行こう」という友人の言葉が響く。
心のどこかで、彼らが何かに取り憑かれているような気がしてならなかった。
ついに、目の前に一軒の廃屋が現れた。
空気がひんやりとしており、恐怖感が一層強くなった。
ふと、そこに立っている影に気づいた。
黒い髪の少女だった。
彼女は私たちを見つめ、その目には深い悲しみが宿っていた。
私は恐れを感じつつも、「助けに来たよ」と言った。
しかし、彼女は口を開かなかった。
ただ、私たちに向かって手を差し出すだけだった。
その瞬間、彼女の後ろで異様な気配を感じた。
何か、耳を裂くような悲鳴が聞こえてきたかと思うと、友人たちが次々とその影に取り込まれていく。
私はただ立ち尽くすことしかできなかった。
彼女の悲しみが、彼らを犠牲にしたのか。
否、その悲しみが彼らを引き寄せ、決して逃がさないのだ。
一人だけ、私はその場から逃げ出すことができた。
篭に戻ると、心臓が高鳴り、手が震えていた。
友人たちの声はもう聞こえない。
後ろで何が起こったのか、確かめることもできない。
私はただ一人、その場を後にし、永遠に心に恐怖が生まれた。
彼女の声、そして私が助けることができなかった友人たちの声は、今も私の耳に残り続けている。
篭の中にいたはずの私が、結局は誰を犠牲にしたのか。
それを知ることは、もうできないのだ。