村の外れにある古びた家に住む三田和夫は、家族を失ってから孤独な日々を送っていた。
彼の家族は数年前、交通事故で亡くなり、和夫はその悲しみに浸り続けていた。
周囲からも疎外され、家の中で自分の気持ちを抱え込む日々。
心の中には、失った家族との思い出が希薄になっていくのを感じていた。
ある晩、和夫は夢の中で家族と再会する。
夢の中で彼は、亡き妻の亮子と子どもたちが笑顔で迎えてくれる。
温かい光景に包まれた彼は、思わず涙を流した。
だが、夢から覚めたとき、彼の心には強い孤独感が残った。
この感情は、失ってしまったものを取り戻したいという切なる願いに似ていた。
和夫は、彼の家族が自分の近くにいてくれると信じたい欲望から、あることを思いついた。
彼は村の伝説にあった「六つの蝋燭」の儀式を試みることに決めた。
この儀式は、亡くなった者たちとの再会を果たすというもので、特定の日に六本の蝋燭を灯し、亡き者の名前を呼ぶことで、彼らの存在を呼び寄せることができるという。
儀式の日が訪れ、和夫は夜の静けさを感じながら、家の中に蝋燭を立てた。
彼は心の中で、家族の名前を一つ一つ呼び上げていく。
「亮子、真央、健太…」そのたびに、彼の胸は高鳴り、期待感が膨らんでいった。
だが、呼んでも呼んでも、彼の周りには何も起こらなかった。
時間が経つにつれ、和夫の心には不安が広がり始めた。
もう一度試みようと、彼は力を入れて家族の名前を呼んだ。
しかし、その声はどこか空虚で、響くことなく消えていった。
彼は焦りを感じながら、最後の蝋燭に火を灯した。
その瞬間、奇妙な風が吹き、蝋燭の火が揺らぎ、彼の周りの空気が重くなるのを感じた。
その時、彼の目の前に、薄暗い影が現れた。
焦点を合わせると、それは彼の家族の姿だった。
驚きと興奮、懐かしさで胸がいっぱいになり、思わず涙が流れる。
「亮子、真央、健太!」と叫ぶ和夫。
しかし、彼らの笑顔は次第に歪んでいき、声が聞こえないことに気づいた。
その瞬間、彼の心に恐怖が広がった。
家族の姿は、彼に向かって伸びる手を持っていたが、その手はどこか不気味で、彼を引き込もうとしているようだった。
和夫は、もう一度叫んだ。
「頼む、戻ってきてくれ!」背後には冷たい風が吹き、蝋燭の光が消えかけた。
完全に暗闇に包まれた和夫は、心の中にあった希望が一瞬にして崩れ去るのを感じた。
家族の姿は、恐怖の表情に変わり、彼に向かって言った。
「私たちはもう戻れない。あなたが壊れてしまう前に、忘れてしまえ…」
それを聞いた途端、和夫は自分が取り戻したいと思っていた「再」が、実は狂気の一歩手前であることに気づく。
その瞬間、和夫の心は、失ってしまったものを求めるあまり、彼自身が狂わされていくのを感じた。
儀式は終わり、彼の周りには蝋燭の残骸と、消え去った影だけが残っていた。
和夫は虚ろな視線で空を見上げ、再び孤独と向き合うことになった。
彼の心には、今も家族の笑顔が残っているが、それは彼を苛む悪夢のように変わっていくのだった。
失ったものの重みに囚われ、彼は再び孤独な日々へと戻っていくのだった。