「光の誘い、影の迷宮」

夜が訪れ、静寂が広がる野原には、一面に揺れる草が風にそよいでいた。
月明かりの下、大学生の高野は友人の佐藤と共にキャンプを楽しむためにこの地を訪れた。
彼らは都会の喧騒から離れ、自然の中でリフレッシュすることを目的としていたが、知らぬ間に彼らの選んだ場所が「異なる何かが存在する場所」だったことに気づいていなかった。

食事を終え、焚き火を囲んで談笑する二人。
高野が面白い話をしていると、突如として風が強まり、火の明かりが揺れた。
ふと気づくと、野原の奥の方で、一筋の光が瞬いているのを見つけた。
最初はただの火のように思えたが、だんだんとその光は強まり、独特の青白い輝きを放つようになった。

「見て!あそこに光がある!」佐藤が指差すと、高野も興味を持った。
二人はその光の正体を確かめるために、焚き火を離れ、ゆっくりと野原の奥へと足を運んだ。
光は静かに呼びかけるように、彼らを引き寄せていた。

足元の草を踏む音が響き渡る中、二人は少しずつ距離を縮めていった。
やがて、光の近くにたどり着くと、そこに立っていたのは人影だった。
青白い光に包まれたその姿は、まるで空気から浮かび上がるように、美しい道を歩く女性だった。
彼女のそれは異世界からの訪問者のように映り、高野と佐藤の心を捉えた。

「私を見つけてくれたの?」彼女の声は風に乗って優しく響いた。
その瞬間、高野は恐怖を感じるよりも、不思議な魅力に心を奪われていた。
しかし、佐藤は不安そうに足を止め、引き返そうとした。
彼は高野を引き留め、「帰った方がいいんじゃないか?」と囁いたが、高野はその美しい声に心を奪われ、何も言えなかった。

「私はあなたたちに違う世界を見せてあげたいの」と彼女は続け、背後に広がる野原に手をかざした。
そこでは青白い光をまとった幻影が揺れていて、次第に輪郭を形成していった。

高野は目を凝らして見つめた。
そこには彼が知らなかった夢や過去、未来の姿が描かれていた。
彼女の言葉は続く。
「あなたたちが選ぶことのできる、もう一つの運命。この光に導かれれば、今までのあなたたちとは違う人生を歩めるの。」

高野は困惑した。
これは夢なのか、現実なのか。
佐藤の方を見ると、彼は真剣な表情で震えていた。
「高野、やめよう。何かおかしい」と言った。
だが、高野はその言葉を無視して彼女に近づいていった。

「私は…見てみたい」と高野が告げると、彼女の表情が柔らかくなった。
「それなら、あなたの選択を尊重しよう。でも、選んだその先に何が待っているのかは知っておかないと。」

彼女の言葉は微妙に響いた。
高野はその美しさに引かれ、確かな未来が待っていると信じたが、心の中の不安は消えなかった。
ふと気づくと、佐藤はその場を離れ、恐怖に駆られて逃げ出していた。

「高野!」佐藤の叫びが響き、その声を背に高野はさらに光に近づいた。
だが、次の瞬間、彼女の姿が揺らぎ、何かが終わったことを告げるように消えた。
周囲は静まり返り、元の野原の景色が目の前に現れた。

高野はその場に佇み、何を選んでしまったのか理解できなかった。
自分の選択がもたらす結果がどうなるのか、彼にはもはや分からなかった。
光が消え、闇が訪れると、高野もまた自らの運命を選んだことを一生悔いることになる。

結局、高野はその野原から帰れなくなり、彼の運命は彼自身の手から消え去ってしまった。
何も知り得ず、ただ異なる世界に引き込まれてしまったその瞬間から、彼の存在は周囲から徐々に消えていった。
彼は終わりのない迷宮の中でさまよい続け、かつての仲間たちからも忘れ去られてしまったのだ。

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