「光の消えた書店」

商店街の片隅にある小さな書店。
それはどこか古びた趣があり、薄暗い照明が灯る店内には、昔からの本が所狭しと並んでいる。
書店の店主、健太はこれまで多くの客と接しながら、穏やかな日常を送っていた。
しかし、最近彼の心には不安が渦巻いていた。

夜になると、明かりの点いた書店の外で人影を見ることが増えた。
彼らは通り過ぎるわけでもなく、ただじっと店の中を見つめている。
その姿はまるで、何かを求めているようにも、無意識にただ立ち尽くしているようにも見えた。
健太はその光景に戸惑いを覚えながらも、無視することにした。

ある晩、健太が閉店作業をしていると、ふと外から響く不思議な音に気付いた。
まるで風鈴の音のようでありながら、どこか不気味さを感じさせるものであった。
音の正体を探ろうと外に出ると、目の前に立っていたのは、薄暗い中にぼんやりと浮かぶ光だった。

その光は、一瞬のうちに健太の目を釘付けにした。
彼はその光の中に人物のような形を見た。
先ほどの人影たちが、ただの光に昇華してしまったかのように、彼の目の前で立ち続けていた。
不安が胸に押し寄せる。
その瞬間、彼は身体を引いて店に戻ってしまった。

何が起こったのか、理解できないままに、次の日も同じ時間に書店に戻り、また同じ光を見つけた。
彼はだんだんとその光と人影に引き込まれていくのを感じ始めていた。
人々は明らかに彼に何かを訴えかけているようだった。
健太はどうにかその光に近づき、意を決して声を掛けることにした。

「何か…お探しですか?」

光の中の人影が少し動いたように見えた。
健太はその瞬間、恐れを感じたが、一方で不思議な引力を感じていた。
不思議なことに、自分が何を求めているのかがわからないまま、その場から動けなくなってしまった。
数分間の静寂の後、影はゆっくりと昇っていくように、その場から消えてしまった。

健太はその瞬間、何かが変わったと感じた。
彼の周りの空気が、まるで重みを増すような感覚に包まれた。
それ以降、書店での日常は、彼自身の内面にも影響していった。
訪れる客の表情が暗く、誰も彼に光を求めなくなったように感じたのだ。

毎晩、彼はあの光の正体を探し続けた。
人々はいつの間にか彼の背中を通り過ぎて、さらに遠くへ消えていくようになっていた。
彼自身、孤独の波に浸され、光の持つ温もりを忘れてしまった。

ある夜、またその光が現れた。
健太は思わずその光に手を伸ばし、力強く叫んだ。
もう一度、私に光を与えてください!と。
しかし光は、冷たく消えた。
彼は何も得られないまま、ただその場に怯えて立ち尽くしていた。

それからというもの、書店はますます静寂に包まれるようになる。
影の存在が消えたことに安堵していた健太だったが、彼自身がその闇に飲み込まれていることに気づかぬまま、時間だけが過ぎていった。

誰かが健太を呼ぶこともなく、彼は一人で夜の帳に飲み込まれていく。
その書店には、もう明かりさえも灯らなくなってしまった。
かつての賑わいは完全に消え失せ、忘れ去られた書店となった。
光は昇ることなく、彼の周りにただ影だけが残ることとなったのだった。

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