「光の桜と影の囁き」

静かな夜、月明かりが優しく園を照らしていた。
園の中央には、古びた大きな桜の木が立っている。
その桜は、数十年の時を経て、その枝は広がり、覆い被さるように鮮やかな花を咲かせていた。
しかし、春の訪れと共にこの桜の下で語られる怪異は、近所の人々の間に静かなる恐怖を植え付けていた。

リという名の女子大生、彼女は好奇心旺盛で、友人たちと共にこの園を訪れることになった。
彼女は、昔から伝わる「光の桜」という噂に興味を持っていた。
およそ30年前、ここで目撃された奇妙な現象、夜に桜の木から放たれる光の正体を探る旅の始まりだった。

友人たちと楽しい会話を交わしながら、彼女は桜の周りを歩き回る。
少し薄暗くなり始めた夕方、リはふと疑念を感じて立ち止まった。
何かが心の隅でささやいている。
けれど、そこに録り続けた自分の感情を叩きつけたくて、何も気にせずさらに近づいていく。

その瞬間、桜の木が微かに揺れた。
「リ、すごい光が見えるよ!」友人の木村が声を上げ、その言葉に惹かれるようにみんなが振り向くと、確かに桜の花びらがまるで輝くように淡い光を放っていた。

リは思わず息を呑んだ。
桜の下にある小さな空間が光で包まれ、まさに夢のような光景が広がっていた。
彼女はその光にすっかり魅了され、その場に留まろうとする。
しかし、どこか不安な気持ちが心の奥でざわめいていた。

「この光、なんか不気味じゃない?」一人の友人が言った。
リは微笑みながらも内心ではその警告に耳を傾ける。
しかし、彼女の思いは強く、桜の光の魅力に取り込まれていってしまった。

その瞬間、リは視界がぼやけ始め、光がまるで彼女を包み込むように膨らんでいくのを感じた。
彼女は目を閉じ、その美しさに酔いしれようとしたが、次の瞬間、体が動かなくなり、何かに捕らわれている感覚が押し寄せてきた。

「助けて、リ!」友人たちの声が遠くから聞こえてくる。
しかし、リはその声が彼女自身の意識に届かないほどに、光の世界に引き込まれてしまった。

光の中で時間がどれだけ経ったのか分からない。
彼女の周りには、自分の姿を模した人影がうようよしている。
彼女は少しずつ、その影がかつて素敵に思った友人たちの姿をしていることに気づいた。
そして、影はまるで彼女を待っていたかのように、じっと見つめていた。

「懐かしい光よ、私をここに導いたのか?」リは心の中で思った。
しかし、その思いが彼女の心を打ち砕くかのように、木の幹が耳を傾けるように空を見上げてきた。

「ここは私の場所ではない、気がついて。」その声はどこからともなく響いた。
リはその声に囁き返そうとしてみたが、声が出なかった。
彼女は自らの存在を感じるどころか、光の中に捕らわれる感覚が増すばかりだった。

そのとき、ふと現れた影が手を伸ばす。
それは彼女の姿をした美しい光の中の影、しかし、目は空虚で深い闇を湛えていた。
「ここに留まる選択をしたのはあなた。その代償を支払いなさい。」影は微笑んでいるようにも見えたが、その表情には無情な真実が隠されていた。

光の中、リは自らが現実に戻れるかもしれないという思いを抱いた。
影たちをふりほどこうと必死になっても、彼女の身は動かなかった。
その瞬間、思い出したように桜の光がまばゆく輝き、彼女の心に希望を灯した。

「私はこの場所から抜け出す。あなたたちの言葉にはもう従わない!」リは心の中で叫んだ。
その瞬間、彼女の心の中にあった恐怖が和らぎ、彼女は光から抜け出す力を感じることができた。

一瞬にして、彼女は元の園へ戻され、友人たちの声が再び彼女の耳に聞こえてきた。
しかし、桜はもう普通の桜ではなかった。
彼女たちが振り返った先には、何もない空間が広がり、その桜はただの形を残していた。

「リ、大丈夫?」友人たちの心配そうな顔がそこにあった。
しかし、彼女はもうその場所に留まる気はなかった。
「うん、行こう。」静かに答え、彼女はそのまま園を後にすることにした。
桜の木から放たれた光、その真実が何であったのかが、今でも心の奥底にひっかかっていた。

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