「光の図に宿る影」

ある夜、大学生の恵那は、友人たちと共に空き時間を使って美術館を訪れた。
その美術館には、特に有名な「光の図」と呼ばれる作品があり、博物館のシンボルとして存在していた。
光の図は、何層にも重ねられた透明な層によって、見る角度によって異なる色や形を映し出す不思議な作品だった。
恵那はその神秘的な雰囲気に魅了され、さらにこれからの未来をキャンバスに描き出すような気持ちになるのだった。

友人たちが待つ中、恵那は一人だけその絵の前に留まった。
周囲に人がいない静けさが、彼女の心に興奮を与えていた。
作品に近づいて見ると、奥深くに隠されているような模様が浮かび上がり、まるで彼女を呼び寄せているかのように感じられた。
恵那は目を細め、じっくりとその光の層を観察する。

しばらくして、ふと気付くと、作品の中からちらちらと光の粒子が彼女に向かって流れ込んでいることに気が付いた。
まるで、彼女の心の中に何かを伝えようとしているかのようだった。
心の中で「これはただの作品じゃない」と思い始めた。
背筋がぞくぞくとし、気配を感じた瞬間、彼女は仮面のような顔をした人の影を見た。

その影はすぐに消えたが、彼女はその恐怖心を抱いたまま、作品にさらに惹きつけられていった。
その瞬間、周囲が静まり返り、彼女以外の存在がまるで消えたかのように感じた。
恵那は不安を抱えつつも、もう一度目を閉じ、作品の中にその光を感じ取っていた。
そうしているうちに、光の図の奥に、自分の知らない物が映し出されているのを見つけた。

その物は、古い日記のようだった。
恵那はその日記に手を伸ばし、無意識のうちにページを開いた。
そこには、何か重要なメッセージが書かれているように感じたが、すぐに視界が揺らぎ、彼女は目の前の世界が一変した。
周りの光景が深い闇に包まれ、図の中から光が漏れ出すかのように、まるで彼女がその中に吸い込まれていくようだった。

暗闇の中、恵那はその日記をかき集め、ようやく一行を読むことができた。
「この光は、過去の思い出を再生するもの。忘れたくても忘れられない人の影が映し出される」と書かれていた。
彼女は驚愕し、その言葉が何を意味するのか理解しようとあたりを見回した。

その瞬間、暗闇から声が聞こえた。
「なぜ忘れたの?」それはどこか懐かしさと切なさを共有する声だった。
恵那は思わず涙を流した。
過去の思い出の中にいる友人や家族、そして彼女が手放すことができなかった物たちの顔が次々に浮かび上がっていった。
それらの顔は、恐れや後悔でいっぱいだった。

恵那は、光の図に縛られているような感覚に襲われつつも、その声に答えた。
「忘れることはできない。でも、どうすればいいの?」彼女の声は震えていた。
すると、再び光が強くなり、その瞬間、彼女の手の中の物が温かさを帯びてきた。
それは、彼女がかつて失った思い出だった。

「それを受け入れなさい」と声が響いた。
恵那はその言葉の意味を理解した。
過去を背負い、そしてそれを受け入れることこそが、彼女を未来へ導く鍵だったのだ。
彼女は深く息を吸い、心の奥底で受け入れることを決意した。

その瞬間、彼女は急に意識を取り戻した。
周囲は元の美術館の景色に戻り、光の図もそのままに見えた。
恵那はその作品に対する視点が変わったことを感じていた。
過去を背負うことの大切さ、そしてそれを受け入れる勇気を学んだのだ。
彼女は静かに、友人たちのところへと向かった。
心に新たな光を灯しつつ。

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