ある夏の夜、田舎の村に住む山田は、祖母の家を訪れることにした。
祖母は高齢で、最近は一人で暮らすのが不安になってきていたため、山田はその様子を見に行くことにした。
祖母の家は、古い木造の民家で、周囲にはいくつかの竹やぶが生い茂っている。
村の人々は、この家には何か怪しいところがあると噂していたが、山田は特に気にしなかった。
その晩、山田は祖母と共に夕食を取り、談笑していた。
祖母が話し始めたのは、自らの若い頃の思い出や、村で語り継がれる怪談だった。
そこで、山田は祖母から「光を見たことがあるか?」と尋ねられた。
不思議に思った山田が「何のこと?」と聞き返すと、祖母は顔を曇らせ、「ある時、私は光に引かれ、森の中へ迷い込んだことがある」と語り始めた。
祖母の話によると、その光は美しい光だったが、近づくにつれてだんだんと不気味なものであることに気づいたという。
光に引き寄せられ、気がつくと彼女は村から離れた場所に立っていた。
ふと周囲を見渡すと、光の正体が不気味な影を持つ存在だったことに気がついた。
彼女は何とか家に戻ることができたが、その光を見た夜以来、村には不穏な事が続くようになったという。
山田は祖母の話を面白く聞いていたが、心の奥で何か不安が芽生えてきた。
すると、突然、窓の外から明るい光が差し込んできた。
山田は驚いて窓を見たが、何も見えなかった。
祖母も同じように、その光に気づいた。
彼女は恐れた表情を浮かべ、「あれがその光かも」と呟いた。
山田は、その光が何かを知りたいという好奇心に駆られ、窓を開けた。
外は静寂に包まれ、星明りが美しかった。
だが、ある瞬間、彼の目の前に現れたのは、幽かな青白い光の塊だった。
それは、まるで人のような形をして、ゆっくりと近づいてきた。
山田は恐怖を感じたが、同時にその光に引き寄せられていく。
祖母の言葉が脳裏に浮かび、彼はそれを振り払い、「ただの光だ、何も悪いことはない」と自らに言い聞かせた。
だが、光はどんどん近くなり、彼の意識が薄れていくのを感じた。
ふと気がつくと、山田は祖母の家の外にいた。
月明かりの下で、彼はその光に向かって進んでいた。
周りの音が消え、頭の中は静寂になり、光の中に潜む意識が彼に呼びかけていた。
「己を忘れるな。忘れた時、お前も消えてしまう」。
その言葉が響く中、彼は自分の過去や後悔が闇の中から浮かび上がるのを感じた。
気がつくと、山田は恐れに囚われず、光に向かって手を伸ばしていた。
その瞬間、光が彼を包み込み、その中に彼の「己」が吸い込まれていく感覚があった。
彼は不安を感じつつも、平穏が訪れるのを感じた。
そして次の瞬間、彼は何も思い出せない白い空間に立っていた。
「お前はなんのためにここにいる?」と耳に響く声が聞こえた。
心の奥にざわめく思いがあった。
彼は祖母のこと、村の人々のこと、そして自分自身を思い返した。
「私は忘れられない存在でいるべきだ」と思った瞬間、光は一瞬変わり、山田はその場から解放される感覚を覚えた。
気がつくと、彼は祖母の家の庭に立ち、青白い光はもうなくなっていた。
振り向けば、驚いた祖母がじっと彼を見つめていた。
「大丈夫?どうしたの?」と心配そうに声をかける。
山田は、ただただ頷いた。
彼はその夜、自分にとって大切なものを再確認したのだった。
何より、自分は忘れられない存在であり続けると誓った。